【両極化の時代】社会課題解決を通して“儲ける”ことで日本は再び成長できる(松江英夫)
二律背反を「つなげる」成長戦略Vol.1
■社会課題解決を通して〝儲ける〞ことで日本は再び成長する
これから日本の経済社会においては、社会課題解決をすることを通して〝儲けていく〞という発想の転換こそが求められる。社会課題と経済成長を一体で考える視点こそが大切だ。そこでカギを握るのは、デジタル技術を活用したイノベーションによる〝新たな内需〞の創出である。では、具体的にどのような分野が考えられるのか。
1つ目は、少子高齢化と密接に関わる、医療・健康分野だ。医療・介護などのシルバー需要だけで巨大な市場であり、かつ医療現場の人手不足解消、国民医療費の最適化等の課題が重い。
今後は、遠隔医療の本格展開や地域包括ケアシステム、疾病予防(健康)や衛生管理の高度化など、デジタル技術を駆使したイノベーションにより新たな需要を生み出す余地は大きい。
2つ目は、環境・エネルギー分野だ。太陽光や風力発電など再生可能エネルギーは、将来的に主要エネルギー源の一つとして期待される一方で、発電量の少なさや変動的かつ分散型電源であるため需給調整などが普及拡大の課題である。
例えば今後、AI、IoT、ブロックチェーン等を活用して需要と供給を可視化し機動的にマッチングできる仕組みが実用化できれば、ハードとソフトの両面で大きな需要が創出できる。
3つ目は、災害対策に関わる分野だ。日本は、地震、豪雨、台風などの自然災害に見舞われる頻度が高く、今後は、非接触型社会を前提にした都市防災機能の再構築が急務となる。
災害予知や発生状況の把握機能、災害発生時の安否確認や支援物資供給等の高度な防災機能をビルトインした日本型スマートシティモデル、社会インフラの強靭化などは大きな需要がある。
そしてこれら全てに共通する日本の課題は〝人づくり〞であり、特に教育産業分野の強化だ。新しい需要づくりと共に、そのニーズに対応できる人材をどのように作るのか、人材教育やリスキル、職業訓練、成長分野への人材シフト、といった労働移動こそが最重要な政策課題だ。
リモートワーク普及により時間や場所の制約が取り払われ、潜在的に多くの人材が多様な形態で教育機会に参加できるようになる中で、ヒトに関する教育産業は大きなマーケットを生み出す可能性を秘めている。
■両極化の時代こそ日本発のビジョンを
両極化の時代においては、多様な関係者においてデータ同士の〝つながり〞を作ることを通して、デジタル技術を介した課題解決、イノベーションを興し新たな需要の創出につなげていくことは、これからの日本にとって極めて重要である。
社会課題の解決を経済的に〝儲ける〞ことにつなげることで、日本経済の成長につながる好循環を作ること。さらに日本が「課題解決先進国」として世界の進むべき道筋に光を照らす存在になることは、両極化の時代にこそ日本が描くべき将来像になるはずだ。
(『一個人』2020年秋号より再構成)
松江英夫(まつえ・ひでお)
デロイトトーマツグループCSO(戦略担当執行役)。中央大学ビジネススクール、事業構想大学院大学客員教授。フジテレビ『Live News α』コメンテーター。専門は経営戦略・組織改革、経済政策。著書に『自己変革の経営戦略』(ダイヤモンド社.2015年)、『両極化時代のデジタル経営——ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)など多数。
【参考資料(最新記事)】
◉フジテレビ『 Live News α』(2020年10月30日放送より)
コロナ過のハロウィーンは? 「リアル」と「バーチャル」二つの楽しみ方
https://www.fnn.jp/articles/-/102097
◉ダイヤモンド社『Harvard Business Review』(2020年10月15日配信より)
ポストコロナは「両極化の時代」デジタルが生む新しいつながりとは
https://www2.deloitte.com/jp/ja/profiles/dtc/hideo-matsue.html