圧巻の県大会制覇。聖光学院「二人の監督」が見据える最強チーム
東北の頂を取るために必要なものとは
「負ける覚悟、あるのか?」
横山博英部長が大きく頷き、言った。聖光学院は、主力クラスと最上級生で結成するAチームを頂点に、Bチーム、育成チームで形成されている。そのカテゴリーにおいて、横山部長は毎年Bチームの監督を担う。新チーム発足へ向け育成を図り、斎藤監督に託す「聖光学院のもうひとりの監督」である。
秋のメンバーのほとんどが、およそ1か月前までBチームだったことを考えれば、誰よりも新チームを理解している。その横山部長が、選手たちの気質について「素直で純粋な奴らが多い」と表現する。
Bチーム育成初期まで遡れば、最初はそれが仇となった。
横山部長いわく「Bチームはめちゃくちゃ勝負にこだわる」という。斎藤監督が認めるように、彼らの能力は高い。しかし、捉えた打球が正面を突いてアウトになったり、エラーをしてしまったりすると、とことん引きずってしまう。そういう選手ばかりだった。
「優しい選手が多い分、チームはまとまりやすいけど、それが試合でよくない方向に出ていた。プレッシャーのかかるなかで、どれだけ逃げずに向かっていけるか? そこから脱し切れていなかった。素直で純粋なのはいいんだけど、勝負には時にやんちゃにならなきゃいけないこともあるからね」
主体性が強い選手が多い〝やんちゃ集団〟だった前年のチームは、ここ一番での爆発力があった。だが、当時Bチームだった彼らは、そこが希薄だという。だから、時に荒療治にも似た訓示を浴びせることも必要だった。
「お前ら、負ける覚悟があるのか?」
めちゃくちゃ勝ちにこだわっているはずのBチームに敗北の意義を問う。ただそれは、負けを甘受させるのではなく、自分たちがどんな無様なプレーをしようとも、逃げずに戦えるか? 横山部長は、その覚悟を選手に理解してほしかったのだ。
「これが難しい。実際に負けると『お前ら、負けて涙のひとつも流せないのか!』って言っている自分がいるからね。俺が一番、勝ちにこだわっているじゃないかって」と、横山部長は苦笑いを浮かべていたものだ。