日本は大人のバランスを持った国ではない〜三島由紀夫が叱った現代日本①
日本人は豚になる〜三島由紀夫の予言
■政治にとってバランスとは何か?
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今年こそは政治も経済も、文化も、本当のバランス、それこそスレッカラシの大人のバランスに達してほしいと思ふのは私一人ではあるまい。小さいバランスではなく、楽天主義と悲観主義、理想と実行、夢と一歩一歩の努力、かういふ対蹠的なものを、両足にどつしりと踏まへたバランス、それこそが本当の現実的な政治、現実的な経済、現実的な文化であると思ふ。
日本もつひに、野球選手と映画スタアと流行歌手の国になつてしまつたか、などというのもヒステリックな詠嘆にすぎない。野球や映画や流行歌がなくつたつて人間は生きてゆけるのだが、さういふ不必要なものが生活の関心の大きな部分を占めるだけ、余裕のできたことを喜ぶべきだ。ただ不必要なものに大さわぎをして、もつと必要なもの、安定した職や住宅や良い道路などのために大さわぎをしないのが、いかにもアンバランスで、今年こそは必要と不必要の双方を踏まへたバランスがほしい。(同前)
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これは一九五九年元旦の読売新聞に載った文章だ。
さすがの三島も正月から世の中に罵声をあびせるようなことはしなかったのだろう。しかし、文章の趣旨は「日本は大人のバランスを持った国ではない」ということである。
バランスとは何か?
決断をすぐに出さずに考え続けることである。
矛盾を抱え込むことである。
そして思考に常に現実を織り込み続けることである。
イデオロギーで裁断するのは簡単だ。方程式に当てはめれば簡単に答えを導き出せる。そして導き出した「正義」を叫べばいい。
世界の真ん中で咲き誇っていればいい。
そういう連中を一般に「花畑」と呼ぶ。
(適菜収『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』[KKベストセラーズ刊]より再構成)
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