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政府や公的機関のシンボルになった、皇室・大名の家紋

パスポートの表紙から、社章、冠婚葬祭、歌舞伎まで 現代に生きる家紋図鑑②

かつて、家制度のシンボルとして、社会の隅々にまで浸透していた家紋は、現代社会にあっても形を変えて暮らしの中で輝いている。日本人の心と伝統美の中に溶け込んださまざまな家紋の姿を探る。
監修・文/楠戸義昭
1940年、和歌山県生まれ。毎日新聞社編集委員を経て歴史作家に。著書に『あなたのルーツが分かる 日本人と家紋』『日本人の心がみえる家紋』『城と姫』『山本八重』など多数がある。

パスポートの菊紋は政府の紋章。天皇家の紋とは微妙に異なる。:写真/起定伸行

 安倍首相が記者会見に使う演台には、皇室紋でもある五七桐紋が付いている。桐紋は明治以降、政府・内閣総理大臣の紋章となったからで、初代伊藤博文から使われている。パスポートの表は菊花紋だが、中面には桐紋がデザインされる。五百円硬貨にも桐紋が配されており、家紋は今も思わぬ所に生きている。

 国鉄はかつて、蒸気機関車の動輪の中に桐紋を用いた社章を用いていたが、民営化されJRとなると、JとRを組み合わせたロゴに変わって、家紋は消えた。

 また、地方自治体の紋章には、大阪府が太閤秀吉の瓢箪をアレンジし、金沢市が前田氏の梅鉢をベースにするなど、家紋が生かされている。

金沢市の市章

「梅鉢」

 家紋はスポーツにも生きている。2018年W杯の出場を決めたサッカーの日本チームの青いユニホームの胸には「三本足の烏」マークが輝く。これは熊野本宮大社の神紋であり、神武東征軍が紀州熊野から大和に攻め入る際、天照大神が遣わした八咫烏(やたがらす)が先導した神話にもとづく。古代中国の故事では、太陽には三本足(三本足の理由は不明)の烏が住んでいるとされ、三本足の烏は太陽を意味して家紋になった。極東に位置する日本は「日いづる国」と称され、太陽のエネルギーを表わす三本足の烏は、躍進のシンボルとして日本サッカーチームにふさわしい。

 2020年のオリンピックは東京に決まったが、その招致ロゴに使われたのが、たくさんの桜の花でリース(花輪)を描いたデザイン。女子美大生が「日本に再び活気が戻るように」と願い、「再び戻る」の意味があるリースに桜花をあしらった応募作品が土台になっている。花弁やしべが、どこか家紋の桜紋の雰囲気を感じさせる。 

『一個人 別冊 日本人の名字の大疑問』(2017年9月27日発売)より構成〉

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楠戸 義昭

くすど よしあき

1940年和歌山県生まれ。立教大学社会学部を卒業後、毎日新聞社に入社。学芸部編集員を経て歴史作家に。著書に『戦国武将名言録』『この一冊でよくわかる!女城主・井伊直虎』(以上PHP文庫)、『吉田松陰「人を動かす天才」の言葉』『坂本龍馬の手紙 歴史を変えた「この一行」』(以上三笠書房・知的生きかた文庫)、『山本八重』『文、花の生涯』『井伊直虎と戦国の女城主たち』(以上河出文庫)ほか多数。


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