のと里山里海号で能登の海を眺める旅
芸術的な車内と三つのビュースポット、そして温かいおもてなし
郵便車は、郵便物を運ぶだけでなく、車内で郵便の仕分けをした移動郵便局だったので、仕分け棚がある珍しい構造だ。郵便物を詰めた袋や小包が置かれ、現役時代を再現している。片隅にはポストが置かれ、投函すると特別の消印を押してくれるとのことだったが、時間の都合で実演はできなかった。
車内に戻ると、団体客が乗りこんでいて、ほぼすべての席が埋まり満員だった。列車は運転を再開、しばらく山の中を走ると、突然、右下に入江が見えてきた。昔ながらの漁港風景が残る深浦地区だ。絵になる車窓なので、列車は一旦停車。最初のビュースポットである。
さらに進むと、七尾北湾が間近に見えるようになり、牡蠣の養殖場が広がる。アテンダントさんの説明がなかったら、ぼんやり見過ごしていたであろう。湾の彼方には、特徴ある吊り橋が見える。これが「ツインブリッジのと」で左に見える能登島と能登半島をつなぐ橋だ。ここで2回目のビュースポット停車。しばし、雄大な海の車窓を堪能した。
次に列車は、春には桜の名所となる能登鹿島駅に到着した。満開の桜の写真を掲げた駅名標が春の賑わいを彷彿とさせる。一度、この駅の桜のトンネルを目の当たりにしたいものだ。
対向列車とすれ違った後に発車。再び海岸線に沿って走るうちに、不思議な形の物体が海中に立っているのに出くわした。ここで、3度目のビュースポット停車となった。その物体は、「ボラ待ちやぐら」と呼ばれるこのあたりに独特のもので、漁師がこのやぐらの上でボラが網にかかるのを待っていたという。すでに、このような漁法は廃れ、実用品ではなく観光用モニュメントとして残っているのだ。
その後、列車は山間部にさしかかりトンネルに入る。すると車内が暗くなると同時にトンネル内のイルミネーションが点灯する。団体客の間から歓声が沸き起こった。何を描いたイラストなのか、もっとしっかり見ようと窓外を凝視するまもなく列車はトンネルを出てしまった。短いイベントであっけないけれど、車内を盛り上げようとする鉄道会社の姿勢に拍手を送りたい。
トンネルを出れば、すぐに終点の穴水駅。かつては、輪島方面と蛸島方面への分岐駅だったが、ふたつの路線ともに廃止になり、穴水で行き止まりになってしまった。車両基地のある大きな駅で。列車は、乗客を降ろすと、構内を行き来してホームに隣接する基地で一日の疲れを癒していた。
すでに夕方なので、和倉温泉へ戻らなければならない。駅に隣接した道の駅で買い物などをして、ほぼ1時間後、普通列車に乗りこむ。気づくと、先ほどの列車のアテンダントさんたちがホームに立って見送ってくれた。私たちに気づくと、笑みを浮かべて手を振る。また、彼女たちの温かいおもてなしを受けたいと思いつつ、穴水駅を後にした。
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