「赤松には本当に助けられた」
石井琢朗コーチ独占インタビュー
クライマックス・シリーズ出場とコーチ1年目
―― 一年間お疲れ様でした。
石井 ありがとうございます。
―― 振り返ってみてどういう一年だったでしょうか。
石井 僕自身にとっては、勉強の一年だったな、と思いますね。現役時代のおさらいというか、復習みたいな感じです。監督やコーチに言われたことを、“若いころの自分”がどう感じていたか。“年齢を重ねた自分”がどう感じ、どう変わっていったか……。
『心の伸びしろ』にも書きましたけど、極端に言えば、若いころは「何のためにやるんだろう?」って思っていたことが、時間を重ねていって「あ、あのときやったことってこのためにあったんだ」って分かることがあるわけです。それは例えば、自分に後輩ができて何かを相談されたときなんかに気づくんですけど。「あれ、俺がいま後輩の相談に対して答えたことって、昔いやいやコーチに言われてやっていたことじゃないか?」ってね。だから、自分の現役時代のことをいろいろと思い出すような一年でしたね。
―― 2013年のカープ、特に前半戦は「走塁の意識」が非常に高いように感じました。
石井 そうですか?
―― シーズン初勝利を掴んだ丸佳浩選手の積極的な走塁やエルドレッド選手が常に全力疾走をするなど随所に、重要な局面で「走塁が生きた」のかなと感じたのですが。
石井 僕がなにかをした、というわけではないと思いますが、エルドレッドのように、意欲のある選手っていうのは僕らが要求したことにどんどん答えてくれました。
―― 具体的にはどういうことを求めたのでしょうか。
石井 「当たり前のことを当たり前にやろう」ということでしょうね。僕が任せてもらっている守備と走塁に関しては僕自身も「当たり前のことを当たり前に」言ってきたつもりです。それは全力疾走や、ベースランニングはどこを走るか、といった「当たり前」のことをやってほしい、という意味合いもあるんですが、もうひとつ大きな目的として「意識」の部分の成長がチームの勝利につながると考えたからです。
―― というのは?
石井 当たり前のことをやろうって、それは選手も分かっていることですし、言っている僕自身も(選手は)分かっているよな、と思っているわけです。でもそれでも敢えて言っておこう、としてきたのは、頭で分かっていても実際の試合ではできない、ということがあるから。ゲームになったときの状況判断は瞬時に行わなければいけないから難しいんですよ。言い続けていて、選手も分かっているのに失敗してしまうことがたくさんある。だから、「頭の中で分かっている」状態から「腹で分かる」状態にまで持っていきたかった。「腹で分かる」というのは、石毛(宏典)さんに言われた言葉なんですけど、その意味がコーチになってようやく分かった。