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【このままでは教員の数は増えない】教育現場に対する財務省のズレた見解

第51回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

教員

■教員数が増えない理由はどこにあるのか

 財務省が教員の数を増やすことに反対している。教員が増えれば、当然支出も増えるからだ。しかし、だからといって無茶な理屈をふりまわすのは、いかがなものだろうか。

 10月26日、麻生太郎財務相の諮問機関である「財政制度審議会(財政審)」の歳出改革部会で、文科省が予算要求している小中学校での少人数学級の導入について議論された。そこに事務局である財務省が「見解」ともいうべき資料を提出している。
 少人数学級導入には教員増員を伴うため、それを阻止するための資料である。それが、いわゆる「学力」だけを基準にしている内容であった問題については、前回の記事(【文科省vs財務省】少人数学級実現を阻害する、主役不在の議論)で指摘した。
 ところが、その資料にはさらに無視できないところがある。

 この資料には「教員の採用倍率について」という項目がある。そこには、次のように記されてある。

「採用倍率の低下は、大量退職に伴う採用者数の拡大によるもの。大量退職の当面の継続、少子化に伴う新社会人の減少を踏まえれば、教員定数の増は採用倍率の更なる低下を招き、教員の質の低下が懸念される」

 そして資料には、小学校における教員採用試験の受験者数、採用者数、競争率(採用倍率)の推移の表が掲げられている。それによれば2000年度の採用者数は3683人で、これが2019年度には1万7029人と急増している。
 これは、財務省の資料が指摘しているように、大量退職での不足を採用で補っているからだ。大量退職の原因は、1970年代の第2次ベビーブームに対応するために大量採用を行ったことにある。その層が定年退職を迎える時期となっているのだ。

 ただし、採用者数は激増しているものの、受験者数は2000年度が4万6156人で、2019年度が4万7661人と、ほとんど変わっていない
 受験者数が変わらないのに採用者数が激増していれば、採用倍率が低下するのは当然である。2000年度の12.5倍は2019年度には2.8倍と、6分の1以下になっているのだ。そして、大量退職で教員の数が足りなくなっているのだから、採用を増やすのも、これまた当然だ。

■教員採用試験の競争率が2倍を切ると…

 問題は、財務省がこれを「教員の数を増やさない理由」にしているところにある。
 少子化の影響で受験者数が増えないなかで教員の採用をさらに増やせば、教員倍率は下がる。教員倍率が下がれば、教員の質が低下する。だから、採用者数は増やせない、というわけだ。
 それを理屈づけるために財務省は、早稲田大学の田中博之教授の次の「見解」を引用している。

「学校現場では、教員採用試験の競争率が3倍を切ると優秀な教員の割合が一気に低くなり、2倍を切ると教員全体の質に問題が出てくると言われている」

 しかも、資料では2019年度の教員採用試験で採用倍率の低かった道県名を列挙している。新潟県が1.2倍で福岡県が1.3倍、佐賀県1.6倍、北海道1.7倍、広島県1.8倍、長崎県1.8倍、宮崎県1.8倍、愛媛県1.9倍といった具合だ。
 いずれも2倍を切っている。田中教授の「見解」に従えば、こうした道県では教員全体の質に問題がでていなければならない。そうであれば、早急に対処する必要がある。列挙されている道県は、それを認めるのだろうか。

 そして資料は、採用倍率が1倍台だった埼玉県志木市を事例に挙げ、「指導力に関する問題が顕在化(実際、クラス担任を続けることが難しく1学期で辞職した教員の事例等あり)」とも述べている。
 1学期で辞職したのは教員の質の問題であり、採用倍率が低いから、そんな質の低い教員が教壇に立っていた、と言わんばかりである。
 あまりにも短絡的な結びつけ方ではないだろうか。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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