旧大宮市にある「膝子」。その悲しき由来とは?
埼玉地名の由来を歩く⑩
「膝子」の由来、膝子塚を探す
私の取材は天候と光との勝負である。現地で写真を撮る関係でどうしても天候に左右される。天候が良くても夕方陽が沈んでしまえば、写真を撮ることは不可能になる。──まさに時間との勝負である。
何人もの古老に聞いても、どうしても見つからない。時刻はすでに4時半を回っている。
もう駄目かもしれない。古い地図を片手に周辺を走り回ったが、見つからない!
あの森の近くまで確かめてダメだったら諦めよう…と観念した。タクシーのメーターももちろん気になる。しかし、私の勘は鈍ってはいなかった。
ある住宅の後ろに回って、畑仕事をしていた女性に「この辺に膝子塚というのがあるのを聞いたことありませんか」と問うたところ、「ああ、あの異形の?……」と答えてくれるではないか!
「これがそうです」とその女性は指を指して答えてくれた。それは私たちが立っている場所からほんの数メートル先の手の届くところにあった! 思わず歓声を挙げてしまった。
その方に伺ったところ、亡くなった赤ちゃんをここに丁寧に葬って、その後長く弔ったのだという。
人の世で障害者が生まれるのは避けられない現実であり、その子どもたちを人として生きることを支援するのが社会の役目である。そんな人権にかかわる地名が今に残されていることに気づかされた。
それまで声をかけた古老はすべて男性であった。やはり男性はこのような問題にやや疎いのかもしれない。それにしても、人間の深さを感じさせてくれる地名に出会えたことに感謝! 大切にしたい地名だ。
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