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旧大宮市にある「膝子」。その悲しき由来とは?

埼玉地名の由来を歩く⑩

「膝子」の由来、膝子塚を探す

 私の取材は天候と光との勝負である。現地で写真を撮る関係でどうしても天候に左右される。天候が良くても夕方陽が沈んでしまえば、写真を撮ることは不可能になる。──まさに時間との勝負である。

 何人もの古老に聞いても、どうしても見つからない。時刻はすでに4時半を回っている。

 もう駄目かもしれない。古い地図を片手に周辺を走り回ったが、見つからない!

 あの森の近くまで確かめてダメだったら諦めよう…と観念した。タクシーのメーターももちろん気になる。しかし、私の勘は鈍ってはいなかった。

 ある住宅の後ろに回って、畑仕事をしていた女性に「この辺に膝子塚というのがあるのを聞いたことありませんか」と問うたところ、「ああ、あの異形の?……」と答えてくれるではないか!

「これがそうです」とその女性は指を指して答えてくれた。それは私たちが立っている場所からほんの数メートル先の手の届くところにあった! 思わず歓声を挙げてしまった。

▲やっと見つけた膝子塚(右の小高い塚)

 その方に伺ったところ、亡くなった赤ちゃんをここに丁寧に葬って、その後長く弔ったのだという。

 人の世で障害者が生まれるのは避けられない現実であり、その子どもたちを人として生きることを支援するのが社会の役目である。そんな人権にかかわる地名が今に残されていることに気づかされた。

 それまで声をかけた古老はすべて男性であった。やはり男性はこのような問題にやや疎いのかもしれない。それにしても、人間の深さを感じさせてくれる地名に出会えたことに感謝! 大切にしたい地名だ。

『埼玉地名の由来を歩く』(著・谷川彰英)り構成〉

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谷川 彰英

たにかわ あきひで

筑波大名誉教授

1945年長野県生まれ。ノンフィクション作家。東京教育大学(現・筑波大学)、同大学院博士課程修了。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。筑波大学教授、理事・副学長を歴任するも、退職と同時にノンフィクション作家に転身し、第二の人生を歩む。筑波大学名誉教授。日本地名研究所元所長。主な作品に、『京都 地名の由来を歩く』シリーズ(ベスト新書)(他に、江戸・東京、奈良、名古屋、信州編)、 『大阪「駅名」の謎』シリーズ(祥伝社黄金文庫)(他に、京都奈良、東京編)『戦国武将はなぜ その「地名」をつけたのか?』 (朝日新書)などがある。

 

 

 

 

 

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  • 谷川 彰英
  • 2017.08.09