ヨーロッパの童話によく出てくる「葡萄酒」の正体とは何か?
「葡萄酒」登場の背景には、欧州ならではの事情も
葡萄酒=ワインではない?
グリム童話など、ヨーロッパから伝わった物語には「葡萄酒」がたびたび登場する。『赤ずきん』ではおばあさんの家へケーキと葡萄酒をもっていくし、『黄金のがちょう』では母親が我が子のお弁当として葡萄酒を持たせている。
この葡萄酒とは、現代のワインのことだろうか。ワインとはブドウ以外にもチェリーやリンゴなどを原料に用いることがある。そのため、あえてブドウ由来のものと示すために葡萄酒としているのかもしれない。
童話では、葡萄酒を水分を補給するために用いることが多い。農作業などの合間に飲むばかりか、子どもや病人までもが飲んでいるかのようなシーンも見受けられる。現代日本の感覚では考えられないが、昔のヨーロッパでは葡萄酒といえばブドウのしぼり汁全般を指していたという。つまり、発酵前のブドウジュースのことも葡萄酒と呼ぶことがあったそうだ。
キリスト教には「聖餐式」という儀式がある。新約聖書に書かれたキリストの最後の晩餐に由来するもので、ここで供される葡萄酒はキリストの血とされ、パンは体とされる。キリスト教徒には神聖なるものであり、キリスト教が広く普及するヨーロッパにおいて、葡萄酒はなじみのあるものといえるだろう。
ここでいう葡萄酒とは、アルコールが入ったものと、いわゆるブドウジュースの2種類があるとされる。前者が本式と主張する説もあれば、酵母が罪とされるためジュースでなくてはならないとする説があるようだ。後者は、葡萄酒とセットで登場するパンはパン種が入っていなかったことに由来している。
こうした背景があるから童話にも葡萄酒が頻繁に登場するのだろうが、水分を補給するなら水のほうがいいのでは? 日本人ならそう思うかもしれない。しかし、ヨーロッパでは水道設備が整っていない時代があり、水が貴重なので葡萄酒を薄めて飲んでいたことがあるという。
現在発売中の『一個人』11月号では、「ワイン&チーズ」と題した特集を組んでいる。じっくりと味わいたいワインが大集合しているが、たまには酵母なしのパンとともに楽しんで、童話の世界を再現するのもおもしろそうだ。