ニッポンの10年はただ同じことの繰り返し。ただし、悪くなっていることにみんな気がついてない。(小田嶋隆×武田砂鉄【前編】)
■ツイートは「何を言うか」ではなく「どう言うか」
武田「今回、自分が選んだツイートは、小田嶋さんの約10年分のツイート400万字ほどのうち、2.5%程度だったそうです」
小田嶋「全て採用すると、この本が40冊はできる計算ですね。最初に横書きで大量のプリントアウトを見せられたときはどうなることかと思いましたが、縦書きになって本として読んでみると、画面でスクロールして読むときより3割方、ありがたみが増した気がします。昔はよくあった箴言集とか、『悪魔の辞典』や、芥川龍之介の『侏儒の言葉』のようなものに見える」
武田「小田嶋さんは、ツイートひとつひとつにだいぶ時間をかけて、一度書いたものを見直したりもするそうですね」
小田嶋「ツイートボタンを押すか押さないかというときに、これは本当に流していいのか、っていうことは、かなり考えますね」
武田「周囲の人が想像している以上に、とにかく真剣にツイッターに臨んでいる」
小田嶋「普通にやってると思ったことをそのまま垂れ流しで書くでしょ。そうすると質の低いものが出てくる。私はツイートするときに、「何を言いたいのか」ということはあまり考えていなくて、それよりも「どう言うか」の方をずっと重視しているんです。こんな例えしか出てこない自分が嫌なんだけど、『志らくってバカだよね』って言っちゃうことの工夫のなさは自分でも許せないから、『毎朝起きて、俺は自分が志らくじゃないことにホッとしている』って書かないとツイートボタンは押せないわけです」
武田「これは本書の『まえがき』でも書いたんですが、それって、角度の発見なんですよね。とにかく色々な角度で同じことを語っていくという姿勢が小田嶋さんのツイートの特徴。その角度の見つけ方のコツ、というのを聞きたい人もいると思うんですが」
小田嶋「それはもう毎日、いろんな言い方をいじくりまわすことを繰り返してきた積み重ねでしょうね。私、小学校1年か2年のころ、電車に乗っていて「うらわ」という駅名は、逆さに読むと「わらう」になるって気づいたんです。そのときの心が躍る感覚はいまだに残っていて、それ以降、あらゆる文字は必ず下から読んでみるっていうのが習性になっている。そうすると「こいしかわ」は文字を入れ替えると「かしこいわ」になるな、とか、「こうらくえん」は「うんこくらえ」だなって、見た瞬間にわかるんです」
武田「そうやって壮大に無駄な時間を過ごしてきたと」
小田嶋「電車に乗っているときはずーっと駅名を並べ替えたりしながら乗ってますしね。そうやってあらゆる言葉を分解して、並べ直すことをしながら1日を過ごしている人間が60年経つとどんな人間になるかというと……」
武田「こういう人間ができあがるわけですね(笑)」
2015年3月14日
どうして、他人が自分と違う考え方で暮らすことが、自分の世界観を崩壊させるというふうに考えることができるのだろうか。
(『災間の唄』p.145より)
武田「一方、時々こういった、名言として使えるような言葉もあるんですよね」
小田嶋「これもね、縦だともう少しありがたみがあると思います」
武田「本人が思っているよりも、受け手が『小田嶋さんいいこと言うね!』って瞬間が、時折訪れる」
小田嶋「そうそう。たいしたことをいってなくても、最後の着地でありがたくみえる言い方ってありますからね」
武田「『情熱大陸』の最後のナレーションって好きになれないんですけど、これのツイートなんて、あのナレーションが似合いますよ」
小田嶋隆(おだじま・たかし)
1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの一人。著書に『小田嶋隆のコラム道』『上を向いてアルコール』『小田嶋隆のコラムの切り口』(以上、ミシマ社)、『ポエムに万歳!』(新潮文庫)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『ザ、コラム』(晶文社)、『友達リクエストが来ない午後』(太田出版)、『ア・ピース・オブ・警句』『超・反知性主義入門』(以上、日経BP)、『日本語を、取り戻す。』(亜紀書房)など多数。
武田砂鉄 (たけだ・さてつ)
1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年からフリーライターに。著書に『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞、2019年に新潮社で文庫化)、『芸能人寛容論―テレビの中のわだかまり』(青弓社、2016年)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋、2017年)、『日本の気配』(晶文社、2018年)、『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版、2020年)などがある。新聞への寄稿や、週刊誌、文芸誌、ファッション誌など幅広いメディアでの連載を多数執筆するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍している。