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【教育の個別最適化】学力のみの選別につながる改革は要らない

第52回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

学力

■経団連と財務省、教育における奇妙な一致

 日本経済団体連合会(経団連)は11月9日、『新成長戦略』を公表した。そこには、次のような一文がある。

「企業は、講師派遣による教育の提供、探究型教育のコンテンツ開発の支援とともに、教育プラットフォームの構築を行っていく」

 これを見て、あることに気がついた。それは、文科省の少人数学級実現を目的とした予算要求に対する財務省からの反論との「一致」である。
 10月26日に開かれた麻生太郎財務相の諮問機関である財政制度審議会(財政審)の歳出改革部会で、文科省の予算要求に対する見解ともいうべき資料が財務省から提出されている。そこには、こう記されていた。

「様々な経験や学びを持つ民間企業経験者が子どもの学びに関する専門性(子どもの心身の発達・学習の過程等)を追加的に学べば教壇に立てる開かれたシステムへと抜本的な転換を図ることを検討すべき」

 教員が教壇に立つ従来のシステムから、教員以外の人材が学校で子どもたちに教える「抜本的な転換」を財務省は主張している。それに応えるように経団連は、企業から学校への講師派遣(つまり教員以外)を進めると宣言しているのだ。
 子どもたちに教育を行う主体を、教員から教員以外に移すという点で、両者は一致している。

 

■「教育」にも口を出す財務省

 さらに財務省の資料には、教育のICT化について以下のよう記されている。

「学習動画及びAIドリルを活用することで、個別最適化した質の高い教育を受ける機会が増え、また、授業の在り方を見直す(TeachingからCoachingへ)ことで授業効率がアップし、教員の負担軽減にもつながる」

 この財務省の資料は、文科省の予算案についての「財務省の反論」のはずである。しかし、それを越えて「教育の在り方」そのものに財務省が足を踏み入れているように受けとれる。
 同じページには、個別最適化について「異なる理解度・学習スピードを持つ生徒一人一人にあわせた授業を展開する」とある。これは、経済産業省HP「未来教室」からの引用だ。

 そして経団連の『新成長戦略』には、「データ活用による教育の個別化」として、「集団の均一な能力向上を図るのではなく、一人ひとりに最適化された学習を提供し、個性や特質を伸ばす方向に転換する」と書かれている。
 財務省と経団連は、「個別最適化」でも一致しているのだ。これは偶然なのだろうか。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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