【車いすのダイバー】エレベーターに鏡がある本当の理由♦電動車いすでシニアも活動の場が広がり、豊かで文化的な生活が可能に《前編》
寝たきりゼロの老後をすごす方法/その四
大学准教授(教員)吉野由美子氏は、18歳から現在に至るまで、杖が欠かせない生活を送って来た。その彼女が圧迫骨折をきっかけに出会った「電動車いす」の性能は、従来の概念をはねのけるほどの衝撃的なツールだった。ところが実際の利用には、まだ数々の問題点があるという。この電動車いすが持つ構造的な「ハードの面」と、それを利用する人間側の「ソフトの面」という両局面。そして電動車いすが稼働する環境、社会の理解度など、様々な方向性を考慮しながら、バリアフリーの最前線に立つ、氏に本音を語って頂こう。
■エレベーターに鏡がある本当の理由は?
ところで皆さんは、(車いすマークのついている)エレベーターになぜ鏡がついているのか、ご存知でしょうか?
一流ホテルの職員の方と話してみても、「何で付いてるのか分からない」と答える方が多いようです。
私のように車いすを日常に使う者にとって、エレベーター内の鏡はとても重要。ドアを背にして乗り込んで、そのまま後ろを向いたまま降りるときに、後ろを確認するためなのです。
それがないと、検討をつけてバックしなければならず、あちこちに車いすをぶつけてしまうのです。
一流ホテルや大きな駅のエレベーターなら、乗ってから車いすを回転させて、前を向いて下りられるけれど、小さなビルのエレベーターでは回転ができません。
鏡には防犯の目的もありますが、このことを知らない方がとても多いのは無理もありません。私も「電動車いす」に乗って生活するまでは、ほとんど意識してませんでした。
確かにこれで外出すると、いろいろなことが起こります。
① ちょっとした溝に気づかずに片方の車輪を落としてしまい、横倒しになって肘や手のひらをすりむくこと。 ② 坂道を登り切ることができなくて、ふらふら横にそれて止まってしまうこと。 ③ちょこちょこと2歳ぐらいのお子様が飛び出てきて、危うくぶつけそうになったこと。 ④勢いをつけて電車に乗ろうとして、目の前を横切ったおばあさんにぶつけてしまったこと。
……などなど。今でもハラハラするような失敗をいっぱい起こしています。だから電動車いすが「絶対に」安全だとは言いません。
でも健常の方でも、外に出て歩いていたら、いろいろなことが起こりうると思いませんか? 窓から物が落ちて来るとか、飛び出してきた自転車にぶつけられるとか……。
それを全部避けようと思ったら、家に閉じこもっていなければ無理なのです。交通ルールが理解でき、普通に人混みを歩ける人なら、高齢者が乗っても決して危険ではありません。業者のしっかりしたサポートもあるし、運転技術も段階を踏んで勉強すれば、普通に歩くのと、そんなに変わりません。
電動車いすは「安全な乗り物」だと思っています。
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著書・執筆紹介
●日本心理学会 「心理学ワールド60号」 2013年 特集「幸福感-次のステージ」
「見ようとする意欲と見る能力を格段に高めるタブレット PC の可能性」
●医学書院 「公衆衛生81巻5号-眼の健康とQOL」 2017年5月発行 視覚障害リハビリテーションの普及
● 一橋出版 介護福祉ハンドブック17「視覚障害者の自立と援助」
1995年発行
●中央法規出版 介護専門誌「おはよう21」2020年12月号から2021年4月号まで「利用者の見えにくさへの支援とケア」連載予定