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神宮大会でも阻まれた全国の壁。聖光学院、主将の悔恨

田口元義が迫る聖光学院

初の明治神宮大会に臨んだ福島県、聖光学院。
県内で圧倒的な強さを誇りながら全国大会では勝てない――。そのイメージとの戦いは容易ではない。県内でも全国でも「勝つこと」でしか評価されないからだ。果たして、明治神宮大会で聖光学院はまたしても敗れた。
スポーツジャーナリスト田口元義が聖光学院を追うリポート第8弾。

■初回のエラー、最大好機での三振

 

 体が震える。今にも溢れ出しそうな感情を抑えるように、聖光学院の主将・矢吹栄希は全身を硬直させ、その場に立ち尽くした。

 9回裏、2死二、三塁。スコアは4-6。一打同点、一発が出れば逆転サヨナラのチャンスで、カウント2-2から外角高めのストレートにバットが空を切った。空振り三振。スイングの勢いで体が反転しピタリと止まる。そして、矢吹はヘルメットを脱ぎ、天を仰ぎながら呟いた。

「情けない姿を見せてしまいました……」

 ゲームセット後の整列では、主将として気丈に振舞った。だが、スタンドで声を枯らした応援団への挨拶では堪えきれなかった。誰よりも深々と頭を下げ、矢吹は泣き崩れた。
 聖光学院にとって明治神宮大会の初陣。九州地区代表の創成館との一戦は、矢吹に始まり、矢吹で終わった。

 初回、1死。セカンドベース付近に飛んだゴロを矢吹が弾く。この失策で、流れは相手に傾いてしまった。直後に先発・衛藤慎也のワイルドピッチで進塁を許すと、2死後、四球で二、三塁。そこから三連打を浴び、いきなり3点を許す苦しいスタートを強いられた。
 8月下旬に新チームを始動させた聖光学院にとって、公式戦では初めて追う展開となった。斎藤智也監督がベンチの雰囲気の重さを説明する。

「公式戦では経験してこなかったことだから、私もそうだし、選手たちにストレスはあった。『気にしていちゃ話にならない』とは伝えたけど、流れを引き戻すのは難しかった」

 衛藤の乱調は誤算だった。2回にも1死から四球を与えると、続く打者にはライト前に運ばれ一、三塁。そこから併殺崩れの間に1点を追加され、衛藤は早々にマウンドを降りた。聖光学院は序盤から後手に回った。

 その裏に4安打で1点差に詰め寄るも、3回に2番手の高坂右京が2失点。4回にも1点を返したが創成館が試合の主導権を握り続け、そして、冒頭の9回のチャンス、矢吹が空振り三振に倒れて聖光学院は敗れた。

 矢吹に始まり、矢吹で終わった――。そうは言ったものの、これはあくまで事実であり、決して矢吹のせいで負けたわけではない。

 

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田口 元義

たぐち げんき

1977年福島県生まれ。元高校球児(3年間補欠)。ライフスタイル誌の編集を経て2003年にフリーとなる。Numberほか雑誌を中心に活動。試合やインタビューを通じてアスリートの魂(ソウル)を感じられる瞬間がたまらない。現在は福島県・聖光学院野球部に注目、取材を続ける。


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