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神宮大会でも阻まれた全国の壁。聖光学院、主将の悔恨

田口元義が迫る聖光学院

■胸に植え付けた責任感

 今年の夏、矢吹は甲子園を経験した唯一の下級生だった。練習試合で結果が出ないなど、不安のスタートを切った新チームを鼓舞するべく、自身の胸に責任感を植え付けた。「俺が引っ張っていかないと」。それが、矢吹の原動力の全てと言っていいくらいだった。

 福島県大会から、矢吹は自分のこと以上に、チームのことを聞かれた時のほうが、生き生きと力強く答えていたものである。

「夏までは、3年生にただ付いていくだけって感じだったんですけど、新チームでは全国大会の雰囲気を知っているのは自分だけなんで。独特の緊張感とか、試合に臨む上での心の持ちようとか、そういう雰囲気は知っているつもりです。この秋は、自分の結果よりもチームをちゃんと引っ張っていくことを最優先に考えていて。とにかく明るくやるというか、自分が打てなくても俯かず、空元気でもベンチを盛り上げていきたいんです」

 チームを優先するあまり、選手として隙が出てしまったというのなら、それは反省すべきことである。それに、矢吹にあえて苦言を呈した石田コーチなら、きっと「自分自身が誰よりも練習することが、チームを引っ張ることにもなる」と言うに違いない。

 極端に表現してしまえば、今年の聖光学院は矢吹のチームだ。

 たったひとりの甲子園経験者。主将という立場。重責を前向きに捉え「弱いところを見せたらダメだ!」と躍起になる。矢吹栄希とは、どこまでも真っすぐな選手なのだ。それが故に隙が生まれ、創成館戦で露見したのならば、むしろ、春のセンバツへ向け収穫を得たと肯定したい。

 斎藤監督は、うなだれる主将を見守るように温かい言葉を贈った。

「最後、矢吹には『ここでぶち込んでくれれば』と期待したが、打てずに終わった。これをいい教訓にしてもらいたい」

 目を真っ赤に腫らした矢吹が、監督の激励に応えるように誓う。

「この負けを甲子園につなげないと意味がない。冬は、強い気持ちで厳しく鍛えます。人間的にももっと成長できるように」

 枯葉を地面に落とした樹木は、冬の寒さを耐えながら養分を蓄え、生気に満ちた青葉をその身に宿すべく春を待つ。

 矢吹も耐える。悔しさ、不甲斐なさ、支えてくれる人たちへの感謝の気持ちを養分とし、センバツで大輪の花を咲かせてみせるのだ。
【史上最強の聖光学院。初の東北王者に見せた涙】

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田口 元義

たぐち げんき

1977年福島県生まれ。元高校球児(3年間補欠)。ライフスタイル誌の編集を経て2003年にフリーとなる。Numberほか雑誌を中心に活動。試合やインタビューを通じてアスリートの魂(ソウル)を感じられる瞬間がたまらない。現在は福島県・聖光学院野球部に注目、取材を続ける。


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