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金正恩はなぜ「中国派」を粛清したのか?

中国式の改革開放路線は許せなかった シリーズ!脱中国を図る北朝鮮②

なぜ、北朝鮮は日本に対して、威嚇行動をとり続けているのか? そもそも北朝鮮はなぜ、この様な国家になったのか? 中ロ情勢に精通する歴史家、田中健之氏が「周辺」から北朝鮮の本質を考察していく。新刊『北朝鮮の終幕』より10回にわたってお届けしたい。〈シリーズ!脱中国を図る北朝鮮②〉

張成沢、金正男という中国派の相次ぐ粛清

 2009(平成21)年、金正日は、後継者として、三男である金正恩を指名しました。

 2010年9月27日、金正日が金正恩に「朝鮮人民軍大将」の称号を授与したと、朝鮮中央通信が報じています。

 これを受けて、翌日から開かれた朝鮮労働党代表者大会に参加した、金正恩の写真が世界に初めて公表されました。その写真を見た人々は、「父の金正日よりも祖父の金日成に似ている」ということに驚いたのです。

 確かに金正恩は、北朝鮮を建国した当時の若き金日成に似ています。彼はそれをわざわざ意識してか、金日成体制を大きな参考とした政治を進めています。

 2011(平成23)年12月17日、北朝鮮の最高権力者である金正日国防委員長が死去、後継者に金正恩が指名されました。もっとも、この後継者の指名は、金正日の妹である金敬姫女史の婿に当たる張成沢国防委員会副委員長の働きかけによるものだと言われています。

張成沢

 その金正恩を後継者として指名した張成沢が突如、失脚したのです。2013(平成25)年12月9日、「八日に開かれた朝鮮労働党政治局拡大会議の決定によって、党から除名した」と『朝鮮中央通信』が張成沢の失脚を報じました。

 これを受けて張成沢は、同年12月12日、「国家転覆陰謀行為」により死刑判決を受け、即日処刑されてしまいます。

 張成沢に対する処刑方法は、全身に数百発の機銃掃射を浴びせると言った、極めて残虐な方法で行われ、その遺体は、火炎放射器で焼き尽くされたと伝えられています。
「地球上から痕跡をなくせ」
と、この時金正恩は、そう指示したとも言われています。

 2012年8月、張成沢氏は中国を訪問しました。中国に10億ドルの借款と投資拡大を依頼するためでした。この訪中で張成沢は、胡錦濤国家主席や温家宝首相らと個別面談しています。

 同月17日、胡錦濤と1時間以上、通訳だけを介して密談した張成沢氏は、経済援助と引換えに、
「場合によっては、核を放棄することもできる」と述べた上で、
「金正恩に代わって、金正日の長男で異母兄の金正男を擁立する可能性がある」
と言ったと伝えられています。

 ところがこの密談内容は、中国共産党最高指導部のメンバーだった周永康(収賄、職権乱用、国家機密の漏洩で失脚、党籍剥奪の上、無期懲役)から北朝鮮に漏れていたのです。

 
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田中 健之

たなか たけゆき

 昭和38(1963)年、福岡市出身。歴史家。日露善隣協会々長。拓殖大学日本文化研究所附属近現代研究センター客員研究員を経て、現在、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員、ロシア科学アカデミー東洋学研究所客員研究員、モスクワ市立教育大学外国語学部日本語学科客員研究員。 昭和58(1983)年に中国反体制組織『中国の春』の設立に関与し、平成元(1989)年6月4日に生じた天安門事件を支援、亡命者を庇護すると共に、中国民主運動家をはじめチベット、南モンゴル、ウイグルの民族独立革命家と長期にわたって交流を重ねている。 平成3(1991)年、ソ連崩壊と共にモスクワに渡り、ロシア各界に独自の人脈を築く。 一方、幼少より玄洋社、黒龍会の思想と行動に興味を抱き、長年、孫文の中華革命史およびアジア独立革命史上における玄洋社、黒龍会の歴史的、思想的な研究に従事、それに基づく独自の視点で、近現代史、思想史を論じている。 玄洋社初代社長平岡浩太郎の曾孫に当たり、黒龍会の内田良平の血脈道統を継ぐ親族。 著書に『昭和維新』(学研プラス)、『靖国に祀られざる人々』(学研パブリッシング)、『横浜中華街』(中央公論新社)、『実は日本人が大好きなロシア人』(宝島社)その他、共著、編著、雑誌など多数。



 


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