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名古屋「日本三大ブスの産地」説は大ウソ!

日本人を47タイプに分けるのは難しい 真実の名古屋論③

今度は「名古屋は美人が多い」説

 ともあれ「合理的根拠をさがそうとするほうが、まちがっている」ような「浮薄な風聞」は、井上章一が聞いた以外にもあったのである。

 しかし、井上章一の研究の過程で意外な事実も明らかになる。明治から昭和戦前期までは、全く逆に、名古屋は美人の産地としてよく知られていた、というのである。その頃の雑誌などにも「美人の産地として有名な名古屋」「昔から名古屋は美人が多い」と頻繁に書かれていた。井上章一は言う。「名古屋と聞けば、美人の産地と反射的に応答する。それが、名古屋観の紋切型になっていた」。

 これまた、私にはにわかには信じられない。名古屋にそんなに美人が多いということがである。

 名古屋には美人が少ないと言いたいのではない。日本中どこだろうと常に一定の割合でブスもいるし美人もいるとしか、私には思えないのだ。名古屋でもこれは同じである。また、美しく装う技術がとりわけ名古屋で発達しているとも思えない。俗に、都会の水で磨かれて垢抜けすると言う。消費文化が発達している所ほど装いが上手になるのは自然である。そうだとすれば、大きな都会であればどこでもおしゃれ事情はそんなに違わないはずだ。名古屋に限って美人の産地とする理由はない。

 しかし、名古屋美人産出説が広く流れていたことは文献上確認されている。この説があったこと自体は、根拠のない風聞ではない。

 私も『朝日新聞の記事にみる―東京百歳』(朝日文庫、1998)に、次のような記事を見つけた。

「美人の本場は名古屋でも、肌の滑かなは京の女、鴨川の水で磨いたのを優なるものとして、東は盛岡西は大阪の輸入もある」(明治42年9月1日)

 美人の本場は名古屋であるのだが、京女も鴨川の水で肌を磨いているので美しいし、盛岡からも大阪からも美人が東京に来る、というのだ。これによれば、美人の産地は、名古屋、京都、盛岡(岩手県)、大阪、ということになる。

 これには時代背景が影響していると、井上章一は言う。明治になり、首都東京には維新の元勲や出世街道を歩む官員様が増え、芸者など花柳界の女の需要が高まっていた。そこへ鉄道が開通し、名古屋から美人たちが流れ込んだ。これが目につき、名古屋には美人が多いということになったらしい。

 世評は意外なことで形成され、また時代によって上下が容易にひっくり返る。そんなことが分かる研究である。

『真実の名古屋論〜トンデモ名古屋論を撃つ』より構成) 

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呉 智英

ご ちえい

評論家。昭和21年(1946年)、名古屋市生まれ。早稲田大学法学部卒業。評論の対象は、社会、文化、言葉、マンガなど。日本マンガ学会発足時から十四年間理事を務めた(そのうち会長を四期)。東京理科大学、愛知県立大学などで非常勤講師を務めた。著作に『危険な思想家』『現代マンガの全体像』『現代人の論語』『吉本隆明という共同幻想』『つぎはぎ仏教入門』ほか。名古屋市在住。


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