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「エール」五郎「麒麟」義昭の共通点、朝ドラ・大河における戦争観の歪みと葛藤を考える【宝泉薫】

足利義昭(あしかが・よしあき)。1537-97。室町幕府第15代(最後の)将軍。

■「戦争、ダメ、絶対」的な空気は朝ドラよりも大河は希薄

 ところで、五郎のような登場人物が放送中のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」にもいる。足利義昭だ。

 その説明をする前に、大河における戦争の描き方についてもざっと見ておこう。この枠の舞台はもっぱら、源平、戦国、幕末といった乱世なので、戦争も頻繁に描かれる。昨年の「いだてん~東京オリムピック噺~」のようなものを除けば、もっぱら大昔の戦争だ。

 それゆえ「戦争、ダメ、絶対」的な空気は朝ドラよりも希薄だが、それでもしだいにその手の価値観が持ち込まれるようになってきた。きっかけは「おんな太閤記」(1981年)の成功だろうか。豊臣秀吉の妻を主人公とし、戦国版ホームドラマとも呼ばれたこの作品は、戦争を嫌い、平和を愛するという女性的視点を前面に打ち出し、高視聴率を記録した。

 そして近年は、男性主人公であっても、好きで戦争をしているわけではないという前提が強調されるようになってきた。一昨年の「西郷どん」では平和を願い続けてきた主人公・西郷隆盛が最終回になってようやくひと暴れして自決するが、作り手の欲求不満が爆発したようにも思えたものだ。

 男性主人公でもそうなので、女性主人公だともっとすごいことになる。「江~姫たちの戦国~」(2011年)では浅井三姉妹の末っ子である主人公が、どこでもドアでもあるかのようにあちこちに出没し、戦国の英雄たちを諌めまくった。この作品を歴代ワースト大河に挙げる人が多いのも仕方ないだろう。

 ちなみに「麒麟」で物議をかもしている架空キャラ・駒は、このときの江に近い。英雄たちとやたらと接点を持ち、その行動に影響を与えるのだ。便利使いしすぎだし、戦災孤児という設定もミソ。その生い立ちゆえ、平和を切望する彼女は主人公の明智光秀を問い詰めて、こんな言い訳をさせる。

「やむをえぬのだ。この乱世を収めるには、いくさのない世にするには、幕府を立て直さねばならん」

 最終的に天下泰平を実現する徳川家康あたりが言うならともかく、本能寺の変の首謀者なのだから、おまえが言うなだろう。これならいっそ「わしはいくさが嫌いではない」「いくさに勝つのはいいものだ」と公言する織田信長のほうが清々しいのではないか。さらにいえば、この台詞はあたかも「戦争、ダメ、絶対」の現代日本で、戦争が日常だった世の中を描くことへの弁解のようにも感じられた。

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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