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金正日の遺訓「中国に利用されるな」

なぜ金正日は中国を警戒したのか。シリーズ!脱中国を図る北朝鮮⑧

なぜ、北朝鮮は日本に対して、威嚇行動をとり続けているのか? そもそも北朝鮮はなぜ、この様な国家になったのか? 中ロ情勢に精通する歴史家、田中健之氏が「周辺」から北朝鮮の本質を考察していく。新刊『北朝鮮の終幕』より10回にわたってお届けしたい。〈シリーズ!脱中国を図る北朝鮮⑧〉

中国共産党による二重の対北姿勢

 金正日が死去の2か月ほど前に側近に残したという「10・8遺訓」の一部が
公開されました。

 これは、金正日の遺書とも言えるものですが、この中で次のように記されて
いました。「歴史的にわれわれを最も苦しめた国が中国」であるとして、「中
国は現在、われわれと最も近い国だが、今後、最も警戒すべき国となる可能性
がある」と述べています。さらに「中国に利用されてはならない」と警告して
いるのです。

 金正日の中国に対する不信感は、1992(平成4)年8月24日に、中国が韓国との国交樹立を宣言して以降、より一層強いものになりました。

 その直後に金正日は、朝鮮労働党の党責任幹部会議を招集し、「これからは、ロシアにも中国にも期待するな。われわれは自分自身に頼るしかない」

 とまくしたて、「われわれは、精神的な原子力爆弾である主体思想と物質的な原子力爆弾に頼る必要がある」と核兵器開発の必要性を強調し、「社会主義は二人の手によって既に葬られた。一人はソ連のゴルバチョフ、もう一人は中国の鄧小平だ」と、中ソ指導者を罵倒しました。

 

 1992年8月、中韓国交樹立によって金正日は、中国をアメリカ以上に警戒し、敵対意識を持っています。

 そして金正日は、対米、対日、対南諜報が中心だった、朝鮮労働党対南工作部署に対中諜報を強化するように指示を出しました。

 以下、元北朝鮮の統一戦線部にいた脱北者、張真晟氏の証言を要約して紹介
します。

 1950~60年代にかけて、粛清の危機に遭った高級幹部たちが、大挙して中国へ亡命しました。

 彼らの大部分が抗日パルチザン出身者か中国内に親戚などの縁故者がいたため中国共産党の支持と保護を受けていました。

 中国の改革開放によって、海外旅行が自由になった彼らから、「金氏世襲政
権」を批判するという発言が溢れました。

 そんな中、彼らを中心にして、金氏政権崩壊に備えて「親中亡命政府」が準備されている、という情報を北朝鮮当局は入手しました。

 これによって金正日は、極度の体制不安心理に陥ったと言われています。

 そのため金正日は、亡命者たちの行動は、中国共産党による二重の対北姿勢だと解釈するに至ったのです。

(『北朝鮮の終幕』より構成)

〈シリーズ!脱中国を図る北朝鮮⑨は2日後に配信します。〉

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田中 健之

たなか たけゆき

 昭和38(1963)年、福岡市出身。歴史家。日露善隣協会々長。拓殖大学日本文化研究所附属近現代研究センター客員研究員を経て、現在、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員、ロシア科学アカデミー東洋学研究所客員研究員、モスクワ市立教育大学外国語学部日本語学科客員研究員。 昭和58(1983)年に中国反体制組織『中国の春』の設立に関与し、平成元(1989)年6月4日に生じた天安門事件を支援、亡命者を庇護すると共に、中国民主運動家をはじめチベット、南モンゴル、ウイグルの民族独立革命家と長期にわたって交流を重ねている。 平成3(1991)年、ソ連崩壊と共にモスクワに渡り、ロシア各界に独自の人脈を築く。 一方、幼少より玄洋社、黒龍会の思想と行動に興味を抱き、長年、孫文の中華革命史およびアジア独立革命史上における玄洋社、黒龍会の歴史的、思想的な研究に従事、それに基づく独自の視点で、近現代史、思想史を論じている。 玄洋社初代社長平岡浩太郎の曾孫に当たり、黒龍会の内田良平の血脈道統を継ぐ親族。 著書に『昭和維新』(学研プラス)、『靖国に祀られざる人々』(学研パブリッシング)、『横浜中華街』(中央公論新社)、『実は日本人が大好きなロシア人』(宝島社)その他、共著、編著、雑誌など多数。



 


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