日米開戦の真の理由。『スターリンの秘密工作員』から分かること
日米を戦争へと追い込んだ シリーズ!日本人のためのインテリジェンス・ヒストリー③
◆『スターリンの秘密工作員』が明らかにする日米戦争の真実
『Stalin's Secret Agents: The Subversion of Roosevelt's Government (スターリンの秘密工作員:ルーズヴェルト政権の破壊活動)』(Threshold Editions, 2012, 未邦訳)は、日米戦争を始めたのは日本であったとしても、その背後で、日米を戦争へと追い込んだのが実はソ連・コミンテルンの工作員・協力者たちであったことを暴いています。
アメリカの機密文書や連邦議会の議事録や調査報告書などを踏まえ、ルーズヴェルト民主党政権内部に潜り込んだソ連の工作員・協力者たちが日米両国を開戦へと誘導し、日米の早期停戦を妨害し、ソ連の対日参戦とアジアの共産化をもたらした側面があることを指摘しているのです。
その指摘が正しいかどうかについては厳密な検証が必要ですが、それはそれとしてこうした議論がアメリカの反共保守派の間で活発に行われている「現実」に目を向けていただきたいと思います。
著者のM・スタントン・エヴァンズ(M. Stanton Evans, 1934~2015年)は現代史に造詣の深い作家で、保守派の重鎮です。イェール大学卒業後、アメリカ青年自由連合という保守派の組織の活動に参加し、さまざまな保守系団体の連携を可能にするような綱領「シャロン宣言」を26歳の若さで起草するなど、若い頃からアメリカの保守主義運動を牽引してきました。
大学でもジャーナリズムを教えつつ、エデュケーション・アンド・リサーチ・インスティチュートというシンクタンクで歴史の研究を深め、多くの著書を出しています。
共著者のハーバート・ロマースタイン(Herbert Romerstein, 1931~2013年)は安全保障の専門家で、特にインテリジェンス研究に詳しい研究者です。
若い頃は共産党員でしたが、朝鮮戦争中に党を離れて従軍し、帰国後は下院の職員として、共産党の実態を含め、安全保障や諜報関係の調査に従事しました。
そのあとレーガン政権下で、ソ連が発信するプロバガンダに対抗する部門の局長を務めたり、エヴァンズと同じシンクタンクで安全保障研究センター長を務めるなど、インテリジェンスに関わる実務や研究職を歴任し、多くの著作を出しています。
この『スターリンの秘密工作員』との出会いはなかなか劇的でした。
インドネシアでも発売されていた
2014年8月、インドネシア独立69年の祝賀行事に参加しようと、首都ジャカルタを訪問したときのことです。私は外国を訪問すると、できるだけ書店に行くようにしています。
書店に並ぶ本を見れば、その国の知識人層がどういうことに関心を持っているのか、わかるからです。
ジャカルタの中心街のショッピング・センターにある書店をのぞいたときのことです。政治、歴史分野のコーナーに行くと、アメリカのオバマ大統領関係の書籍のほか、中国共産党政府の動向に関する本などが並んでいました。「孫子」に関する本もかなり多く、中国人の思考を理解しようとする動きが強いこともわかりました。
歴史分野の棚を見ていたら、たまたま『スターリンの秘密工作員』を見つけました。
エヴァンズの名前は知っていたので、「インドネシアでは今でもソ連、コミンテルンの工作について関心を持つ知識人がそれなりにいるのか」と感慨深く思いました。
詳しくは述べませんが、インドネシアも1960年代に、ソ連や中国共産党による秘密工作によって共産革命の危機に瀕【ひん】したことがあります。そのため、ソ連・コミンテルンの対外秘密工作について研究する専門家たちが今なおインドネシアには存在していることがわかり、感心したのです。
その2年後の2016年秋、インターネットに掲載されている「ソ連、コミンテルンの対米工作」に関する私の英語の論文を見て、米軍の情報将校だった一人のアメリカ人が私のところに連絡してきました。
彼は、アメリカにおけるいわゆる従軍慰安婦問題に関する反日宣伝の背後に、中国共産党と北朝鮮の対米工作があると考え、その調査のために日本にやってきたのです。
中国共産党の対外宣伝工作について調べている彼といろいろ話をしていたら、アメリカの保守派による日米戦争の見直しの動向が話題になりました。彼は「中国の軍事的台頭の背景には、第二次世界大戦当時の、ルーズヴェルト民主党政権の外交政策の失敗があると考え、今、アメリカの保守派、反共派、軍事専門家の間で、ルーズヴェルト民主党政権と中国、ソ連、日本との関係を見直そうとする動きが活発になってきている」としていくつかの本を紹介してくれました。その一つがなんと『スターリンの秘密工作員』だったのです。