2021年、断絶なき成長への強みが日本にある——人口減少から人財大国へ! 両極化の時代に日本が目指すべき道筋【松江英夫】
二律背反を「つなげる」成長戦略Vol.2
◼︎両極化の時代に日本が目指すべき道筋①~⑤
①GDPと人的資本との組み合わせ
人財大国を目指すうえでの政策目標は多角的に捉える視点が必要だ。GDPを基本とした成長指標に加えて、国連環境計画により発表された「新国富(Inclusive Wealth)」を取り入れることを提言したい。新国富とはインフラや健康、教育、自然などの社会的資本の価値の蓄積を評価するものだ。その中で特に「人的資本」の価値をどう増やすのか、教育と健康などの観点で人財価値を高めるうえで重要な目標になりうる。
②産業政策と人材育成の組み合わせ
人財の付加価値化には成長産業への人材シフトが必要だ。
今後は、脱炭素社会に向けて全産業の構造が変わる中で、以下の産業政策と人材育成の積極的な組み合せが求められる。
競争力ある産業の選択と集中(環境、エネルギー、ヘルスケア、国土強靭化、教育等)デジタル化を通じた全産業の高付加価値化
成長産業に人をシフトさせる再教育、再就職支援のインフラ整備
③「社会としての終身雇用」官と民の組み合わせ
人口減少社会において人財大国を目指すうえで、〝社会としての終身雇用〟を可能にするシステム作りが極めて重要だ。従来は企業が終身雇用の役割を担ってきたが、今後はグローバル競争力との両立に向けて、企業の雇用を柔軟化し、官民の社会全体として終身雇用を保証することが求められる。
企業においては、兼業や副業をはじめ企業間での労働移動を可能にする雇用の柔軟性を高め、官は、リカレント教育(学び直し)、職業訓練、再就職支援機能を強化し、官民で人材の需給を調整するプラットフォームを強化することで、社会全体としての終身雇用を可能にする。
④「雇用の柔軟化」に向けた二つの組み合わせ
企業の人事制度において、以下二つの論点が肝要となる。
(A)メンバーシップ型×ジョブ型
(B)オープン化×複線化
ジョブ型の導入が注目されているが、全ての仕事がジョブ型に馴染むわけではなく、(A)のメンバーシップ型との組み合わせによるハイブリッドが現実的である。加えて重要な点として、(B)のキャリアパスの複線化と外部との移動を可能にするオープン化を組み合わせる視点も必要だ。
人財大国化するうえで、レベルの高い中高年層の社会全体での戦力化も重要であり、定年制見直しを含めたキャリアパスの複線化、雇用契約の多様化、さらには、兼業・副業の解禁、外部の出向や従業員シェア等、多様な選択肢から選べる柔軟な人事制度の構築はすべての企業にとって重要な課題である。
⑤富の再分配における組み合わせ
今後はデジタル化の進展とともに経済格差増大の懸念も高まり、富の再分配(ベーシックインカム等)がより注目される。そこにおいて、人財価値を高めるための再投資という視点を持つことが重要だ。具体的には、一律の所得再分配ではなく、持続的に収入を得る労働環境の整備(再教育、再就職コスト軽減、一部無償化など)との組み合わせが必要だ。
「人財大国」を掲げた〝断絶なき成長〟こそ両極化の時代に日本が目指すべき道筋である。
松江英夫(まつえ・ひでお) デロイトトーマツグループCSO(戦略担当執行役)。中央大学ビジネススクール、事業構想大学院大学客員教授。フジテレビ『Live News α』コメンテーター。専門は経営戦略・組織改革、経済政策。著書に『自己変革の経営戦略』(ダイヤモンド社.2015年)、『両極化時代のデジタル経営——ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)など多数。
(『一個人』2021年冬号より再構成)
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