「パラダイス文書」には何が書かれているか
【パラダイス文書】を橘玲氏が徹底解説1/3
ゼロ税率の島? タックスヘイブンが存在する理由
トオル…ああやっとボーナスが出た。でも、結局これも税金で結構とられてるんだよね。タックスヘイブンで節税なんてできないかなあ。
シズカ…トオルくん、タックスヘイブンの意味、知ってて言ってる? 私たちの稼ぎ程度じゃ関係のない話だよ……。まあ、最近だと「パラダイス文書」のニュースも話題になったけど、正直私もよくわからないわ。
トオル…「タックスヘイブン」はなんかカッコイイから言ってみたかっただけ。あと「パラダイス文書」って…なんだっけというレベルだよ(泣)。『タックスヘイヴン』(幻冬舎)の著者で作家の橘玲先生なら詳しく話してくれそう! 橘先生教えてください。
橘…はじめまして。まず、タックスヘイブンについてですが、日本の定義では租税負担割合が20%以下の国や地域の総称のことです。「オフショア」とも言われています。今回流出した「パラダイス文書」は、主にアップルビーという法律事務の顧客データのことを指していますが、この会社の所在地であるバミューダ諸島もカリブ海のタックスヘイブンのひとつですね。
トオル…それにしても、パラダイス文書って変な名称ですね。パナマ文書の時はパナマから流出したものだって察しがついたけど。
橘…タックスヘイブンのことをフランス語では「税の楽園」と表現をすることや、租税回避地には南国の島国が多いことから、今回はICIJ(国際調査ジャーナリスト連合)が「パラダイス文書」と名付けたのです。「バミューダ文書」だと地味なので、報道する側もインパクトのあるネーミングにしたのでしょう。ちなみにカリブ海のタックスヘイブンといえば、イギリス領のケイマン諸島やバージン諸島、アジアでは香港やシンガポールが有名です。
シズカ…でも、どうしてそんな租税率が低い場所が存在するのかしら?
橘…場所によって理由は様々ですが、バミューダやケイマン諸島といった小さな島は、どんなに税率を上げたところで、国民から得られる税収には限界があります。そこで金融所得に税金がかからなくしたり、国外で得た所得には課税しないことにして、グローバル金融機関や世界の富裕層を呼び込んだ方が利益を生みやすくなるんです。
トオル…確かに、島の住人にとっても重税を課せられるよりは、タックスヘイブンで金融産業が活発になるほうが嬉しいかも。
橘…はい。あと、タックスヘイブンに移住すれば相続税や贈与税がかからないなどのメリットもありますから、そうした理由で島にお金持ちが集まってきたら、消費も生まれて一石二鳥なわけです。
シズカ…積極的に他国の資本を誘致しているのね。
橘…ただ、バミューダ諸島あたりは三宅島よりも面積の狭い小さな島で、人口も少なく、自力では複雑な金融税制を作成するだけのノウハウはありません。そこで、ニューヨークのウォール街やロンドンのシティで金融業務に関わっている人たちが、自分たちにとって都合のいい法律を考えて、こうした島に売り込んでいくわけです。
トオル…結局、頭の良い一部の人たちが一番得をしているような気がするなぁ。
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