賢い人ほど、法を犯さず大金を手にする
【パラダイス文書】を橘玲氏が徹底解説2/3
賢い人ほど、法を犯さず大金を稼ぐ
トオル…でも、節税のためにわざわざ銀行を作ったり、別の場所で買い物したりするのってべらぼうに面倒くさそうなんですけど。
橘…超富裕層は自分でそんなことはしません。法律事務所や会計事務所のコンサルタントや、プライベートバンカーがかわりにやってくれます。超富裕層向けにオーダーメイドのスキームを提案していくのが、アップルビーなどがやっているビジネスですね。
シズカ…確かに、もし何億も節税できるなら多少のコンサル費用を払っても惜しくないかも。
橘…一般的なコンサルで1億円の報酬を受け取ることはそうないと思いますが、合法的なスキームで税金が10億円安くなるなら、喜んで1億円払う人はいくらでもいるでしょう。お互いWin-Winなわけです。
トオル…なんだか、遠い世界の話だな…。このバンカーやコンサルっていうのも、別にアウトローな世界にいる人というわけじゃないんですよね?
橘…はい。むしろエリートビジネスマンという感じですね。賢い人ほど、法を犯すようなリスキーなことはせずにお金を稼いでいきます。ただ、過去には顧客情報を税務当局に提供して荒稼ぎしたプライベートバンカーもいました。2008年には、リヒテンシュタインの大手銀行LGTの元行員がドイツ当局に顧客情報を約8億円で売り渡したという事件が公になりました。
トオル…個人情報は金になるっていうけど、実際にどうやって稼ぐんだろう。
シズカ…ドイツの税務署はなんで8億円も払ったんですか?
橘…その情報を利用して8億円以上の税金を徴収できるなら、納税者にとってもプラスですからね。ちなみに顧客情報を持ち出した男は、今は名前を変えてオーストラリアに住んでいるらしいですよ。
シズカ…悪すぎる…! 倫理的にはどいうかと思うけど、ある意味頭がよくないとここまでうまくやれないよね。
橘…もっと大物もいますよ。やはり2008年にプライベートバンク最大手UBSの米国部門トップが脱税ほう助の疑いで身柄を拘束されましたが、情報提供した元行員にはその後、約140億円もの報奨金が支払われましたから。彼らは悪人ではありませんが、高い能力をもちながらもお金のことにしか興味のない、特殊な人たちであるとは思います。規制する側が、彼らが考えつくスキームに追いついていけないんですね。
シズカ…それで、規制していくそばからどんどん抜け道ができていくってわけね。
橘…彼らにとってはグローバル金融市場はゲームの場で、遊び感覚でタックスヘイブンを使った租税回避スキームを考え、大金を動かしているのかもしれませんよ。