【今際の国のアトム】58年前の今日、アニメ『鉄腕アトム』放映開始で本当にはじまった「死」の商品化《今日はニャンの日:1963.1.1》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【今際の国のアトム】58年前の今日、アニメ『鉄腕アトム』放映開始で本当にはじまった「死」の商品化《今日はニャンの日:1963.1.1》

平民ジャパン「今日は何の日」:12ニャンめ


 1963年1月1日、『鉄腕アトム』アニメ放映開始。
 テレビアニメの原型は、心を持ったロボットと人間、奴隷と主人の関係を勧善懲悪とハッピーエンドに落とし込み、よい子たちに科学の未来と特攻隊のありがたみ(死にざま)を教えたのニャン。


◼︎初代モノクロ版『鉄腕アトム』

 58年前の今日、1963(昭和38)年元旦、日本初のロボットアニメで、日本初の本格的30分アニメシリーズ「鉄腕アトム」の放送が始まった。後発局の「母と子のフジテレビ」だった。

 当初編成枠は火曜日18時15分からの30分枠、翌年から土曜日19時に移動した。「マーブルチョコレート」の明治製菓1社提供、日本最古の広告代理店、萬年社(1999年倒産)の持ち込み企画だった。

 いきなり視聴率27.4%を出した初回「アトム誕生」で、アトムは“おとうさん”と呼んでいた天馬博士に「背が伸びない」という理由で捨てられる。ロボットサーカス団に売却譲渡され、グラディエーターとして巨大ロボットと決闘させられる。プロレスとボクシング全盛の時代、アトムもまた剣闘士としてデビューした。

 時代は「子供用のサーカス(格闘技)」と「子供用のスーパー・ヒーロー(不敗戦士)」を必要としていた。まる4年にわたって全193話が放送され、最高視聴率は40.7%を叩き出した。

 しかし、東京オリンピックによってテレビのカラー化が加速する中、アニメもカラー化が進められた。スポンサーの意向によって「モノクロ」のアトムは終了した。サーカス小屋の片隅に電池切れで捨てられていたロボットたち同様、アトムも飽きられ、用済みになった。

 1966(昭和41)年12月31日放送の最終回、アトムはロボットの大統領として担がれ、地球を救うために「特攻」に赴く。令和の感覚でみれば、あまりにもご無体な話だ。

 

◼︎人間より人間らしいアンドロイド

 約60年の時を経てなお、アトムはマンガの原点、アニメの原点、商標・商品化の原点、そして、世界に輸出される日本のポップカルチャー・アイコンの原点として、不動の地位にある。

 しかし、オリジナル(漫画「アトム大使」「鉄腕アトム」)は決して科学礼賛の物語ではなかった。人間がロボットを隷属させ使役する世界における、ロボットの苦悩と抵抗を描いていた。救いの無い、暗くて残酷なおとぎ話だった。見た目の愛らしさからはかけ離れた暴力を行使し、非人間的な強さを発揮した。片っ端から敵をやっつけて問題を解決していくアトムは、つねに無敵だった。だからこそ、テレビっ子の大量生産に貢献し、内外に市場をつくった。テレビ産業にとってのヒーローでもあった。

 1963年秋には早くもアメリカに輸出され、米国NBCネットワークが「アストロ・ボーイ」として放送、全米の放送局で記録的な視聴率を出した。「暴力的」「残酷」という批判を受けながら、日本のテレビアニメは一気に全米に広がった。そもそも複雑でアンハッピーだった物語が、テレビ向けに無理やり能天気なハッピーエンドに持っていかれたことは想像できる。絶対的善をレペゼンするヒーローと、事情を背負ったヒールの対決をシンプルに見せるプロレスだ。このカタは、後に『少年ジャンプ』が生み出す悟空や炭治郎に受け継がれ、メガヒットアニメを産み出し続ける。

 しかし、いま白黒版アトムを見れば、そこには『ドラゴンボール』や『鬼滅の刃』にはない、科学、歴史、政治、文明の暗部に至る膨大なテーマがある。

 手塚治虫によって科学のダークサイドが仕込まれている。高度成長期真っ只中の、科学万能・礼賛の時代に、ユートピアを描いたはずのテレビアニメが、じつは、その後の人間社会に展開するディストピアの予告編だった。10万馬力の原子力(のちに核融合)モーターやマッハ5で飛ぶ足のロケットはともかく、善悪の見分けがつくという、心を持つ電子頭脳(AGI:汎用人工知能)、60か国語を話す人口声帯(音声合成)は、いま人類が取り組む最先端テクノロジーの課題だ。

 世界は鉄腕アトムが描いた方向に着々と向かっている。しかし、アトムの世界では、ロボットはロボット法によって権利義務を定義され、差別される存在でもある。人間よりも人間らしいアンドロイドが生まれた時、ロボット法は改正されるのか。人権は人間だけのものなのか。そこで問われるのは人間の意味だと、すでにアトムは問題提起をしていた。

 

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猫島 カツヲ

ねこじま かつを

ストリート系社会評論家。ハーバード大学大学院卒業。

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