中東の名門大学で学ぶ方法――直談判の驚き
一に熱意、二に熱意、三四がなくて、五に熱意 カイロ流交渉術②
熱意、熱意、熱意、エジプト人にしつこいと思われる!
【前回「フセイン、アラファト、国連事務総長・ガリ、小池百合子に「交渉術」を体得させた名門大学」】
カイロ大学に入るため、高等教育省に通いつめる一方で、別の手も打ちました。
高等教育大臣が毎週金曜日にお祈りにやってくるモスクがあると聞き、そこで直談判することにしました。大臣の姿を認めると、そのかたわらにいって
「文明の発祥地でありアラブの盟主、エジプトの文部大臣よ! 日出ずる国からわざわざ勉強しにきた好青年を受け入れないとは両国の損失! あなたの了見の狭さは歴史に名を残すだろう」と訴えました。
大臣への直談判の効果があったかどうかは分かりませんが、それでも毎日通い続けるうちに、おばちゃんはこちらのいうことに対して反論したり、弁解するようになってきました。これは歓迎すべきことです。対話することで矛盾や問題をつぶしていける土壌ができるのですから。
おばちゃんはついに、エジプト人の場合は高校の卒業証明書と成績証明書が必要だが、あんたにはそれがないと答えました。成績証明書といえば、通知表です。さっそく日本から通知表を取りよせ、アラビア語に翻訳して交渉開始です。
まず、在カイロ日本大使館に頼みこんで、その翻訳が正しいことを示すレターと捺印をもらいました。また、5段階評価の通知表について説明文書を添付。5は100点相当、4は95点、3は90点のような手前味噌な換算表です。日本の通知表の「5」を「100点満点の5点」と勘違いされたら、どれだけ交渉力があっても、とんでもない「落第生」とみなされます。説得力がまったくありません。
不思議なもので、私が翻訳した通知表と換算表に、大使館のレターがセットになると、あたかも公式文書にみえてくるものです。満を持して、書類を提出しました。
その数日後、いつものように窓口に行くと、おばちゃんがシュワルマ(羊肉のサンドウィッチ)を取り出して食べようとしていました。それを包んでいた紙を見ると、そこに私の名前が書いてあるのが見えたのです。
「あれ、それ私のじゃないですか?」と聞くと、「そうよ」といって、その紙を渡してくれました。それが私の入学許可証でした。あなたには負けたわ、よくも私によけいな仕事をさせてくれたわね、という意味でのエジプシャン・ジョークだったのだと思います。
合格の次は学部選びの交渉です。エジプトの場合、高校卒業試験の点数によって、難易度の高い学部に入れるかどうか決まります。私の場合、手前味噌な通知表換算のおかげで、「卒業試験」が満点に近いと判断され、「君ならどこの学部でも好きなところを選んでいい」と太鼓判をおされたのには笑いました。
こうして見事、入学を勝ち取ったのです。
(『“闘争と平和”の混乱 カイロ大学』より構成)