「時代の変化にあわせて伝え方も変化が必要だ」千葉ロッテ・井口流指導法
井口資仁監督に聞く。Q4.昔と変わりつつあるメンタリティの中で、現代を尊重したいもの、改善したほうがいいものは?
変わりゆくメンタリティの中で「いかに伝えるか」を考える
最近は、怒られたり叱られたりすることに慣れている選手が少なくなったと感じています。これについては「良い悪い」で捉えていては意味がありません。
僕らの世代の多くは、両親をはじめとした周囲から叱られながら育ってきました。時には怒鳴られることもあった。当然、野球の現場でも、悪いプレーが出たら、指導者が「何やってんだ!」と厳しく怒鳴りつけるのが当たり前の光景でした。
でも、今の若手たちの中には、両親にさえ厳しい言葉で叱られたことのない選手がいっぱいいます。だから、頭ごなしに怒ってしまうと、プレッシャーでつぶれてしまう場合もある。言い方は少しおかしいかもしれませんが、相手を少し持ち上げてあげないと、素直に受け入れてくれない場合もある。こちらが考えていることの伝え方が難しくなってきていると感じています。
そういう状況の中、伝えるという目的を達成する上で、その対象の性質が変わったのですから、伝え方自体を変えなくてはならないというわけです。
たとえば、最初にバンッと強く言ってしまうと、それ以降のこちらの言葉が耳に入ってこないような選手もいます。そんな状態では、こちらがどんなにすばらしいアドバイスをしたとしても、全く無駄になってしまいますから…。
決して若い選手におべっかを使うわけではありません。ただ、まず自分のことを話すよりも、相手の話を聞いてからアドバイスを伝える。現役生活最後の2、3シーズンは、代打としてベンチに控えることも多く、若手と話す機会が増えましたが、常に「伝え方って本当に難しい」と実感していました。
だから、僕は若手に「ああしろ、こうしろ」とは言いません。自分の経験を通して、「自分はこうだったけど、それが合うなら取り入れてみな」「こういうやり方もあるよ」と接してきました。
監督になっても、このスタンスの指導法を貫こうと思っています。
野球の技術は感覚的な部分も含むので、伝えたり教えたりするのは本当に難しい世界です。感覚的であるため、コーチによって、いろいろな教え方が存在する。また選手にとっても、フィットする教え方と、そうでない教え方が存在する。当然、コーチたちは「選手の技術をもっと上げよう」と考えているので、悪いことを言うはずがないのに、選手によっては、それが合わない場合もあるわけです。
逆に、同じコーチの同じ言葉だとしても、選手の受け取り方によっては、180度真逆に解釈されてしまうこともあります。
たとえば、一軍と二軍でコーチの言っていることが全然違っていると感じてしまったら、その選手は混乱してしまうでしょう。
だから今年からは、一軍と二軍を通して、指導法の一本化を徹底します。そして選手たちには、その指導法の中から、自分に合うやり方を見つけてもらう。指導者はあくまでアドバイザーで、育つのは選手自身。
選手の自律……これが今年の千葉ロッテマリーンズの改革の大きな指針の一つです。