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【2021年の教育現場予測】「教員の質」問題に備えよ

第60回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■問題は教員を取り巻く環境の改革がすすまないこと

 証拠なるものが皆無というわけではなく、埼玉県志木教育委員会の例を挙げている。志木教委では「採用予定者数を確保することが困難(倍率1倍台)なくらい応募者が激減」しており、その結果、以下のような「教員の質の低下」があるという。

「指導力に関する問題が顕在化(実際、クラス担任を続けることが難しく1学期で辞職した教員の事例等あり)」

 1学期で辞職したから「質」に問題あり、という乱暴な論旨である。多忙からの体調悪化かもしれず、パワハラで退職に迫られた可能性も否定できない。教員の質に関係なく、そういう環境を改めていかないかぎり教員の途中退職は避けられない。実際、途中退職する教員は多い。
 そういう状況を無視して、「辞めるのは教員の質に問題があるからだ」とする財務省の捉え方は、教員個人だけに問題を押し付けており、問題があるだろう。
 さらには、2019年度の採用倍率(小学校)が全国平均で2.8倍であり、8道県では2.0倍未満となっているとして、その同県名を挙げている。新潟県1.2倍、福岡県1.3倍、佐賀県1.6倍、北海道1.7倍、広島県1.8倍、長崎県1.8倍、宮崎県1.8倍、愛媛県1.9倍、といった具合だ。
 つまり、この8道県では教員の「質」が低下している、と言っているのと同じなのだ。それを8道県に含まれる自治体の教員に話したところ、苦笑していた。
苦笑するしかないほど、乱暴な決めつけでしかない。

 財務省と同じような見方で教員の「質」が問題にされてくるとすれば、すべてが「教員が悪い」になってしまう可能性がある。
 残業が多いのは教員の質が悪いからだ、体調を崩して休職するのは教員の質に問題があるからだ、学級崩壊は教員の質が低いからだ、イジメがなくならないのは教員の質のせいだ、といったように、何でもかんでも教員の「質」の問題にされてしまう。

 挙げ句、「教員はダメだから外部から人を入れろ」ということにもなるだろう。実際、経団連は昨年11月に「Society5.0に向けて求められる初等中等教育改革」という提言で、学校で外部人材を積極的に採用するよう求めている。
 企業にしてみれば、社員を派遣するビジネスにもつながるだろうし、財務省としては、企業から安価で人が派遣される制度になれば、支出を抑えられて万々歳かもしれない。

 教員の「質」をめぐる議論が活発になっていくことで、「質」は単純化されてますます教員の責任が問われることになり、攻撃対象にされかねない。そこに用心しなくてはならないし、教員の「質」は教員個人の資質の問題ではなく、際限なく仕事を増やしている問題、管理の問題、短絡的な効果だけを求めてくる問題、つまり教育全体の問題だということを再認識する姿勢こそが必要なのではないだろうか。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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