「志村けんと岡江久美子、他人事だったコロナ観を変えた隣人の死」2020(令和2)年その1【連載:死の百年史1921-2020】第5回(宝泉薫)
連載:死の百年史1921-2020 (作家・宝泉薫)
死のかたちから見えてくる人間と社会の実相。過去百年の日本と世界を、さまざまな命の終わり方を通して浮き彫りにする。第5回はまだ記憶に新しい2020(令和2)年その1。コロナ禍の象徴というべき志村けんや岡江久美子を中心にとりあげた。
■2020(令和2)年
今井ゆうぞう(享年43)、志村けん(享年70)、岡江久美子(享年63)、宅八郎(享年57)
死ぬのはいつも他人ばかり。
美術家のマルセル・デュシャンが遺した言葉だ。解釈はさまざまだが、個人的には、人間が自らの死を認識できないため、死を他人事のようにとらえがちだという世のならいに思いを馳せる。
ただ「他人」といっても、いろいろだ。自分以外の存在、それが家族や知り合いでなくても、その死を切実に感じることがある。いわば「隣人」の死として受け止めるわけだ。
たとえば、昨年暮れ、今井ゆうぞうが亡くなった。2003年から5年間「おかあさんといっしょ」(NHKEテレ)でうたのおにいさんを務めた人だ。享年43、脳内出血による急死である。
同じ期間、うたのおねえさんとしてコンビを組んだはいだしょうこは自身のインスタグラムで「突然の事で、胸が苦しく」としながらも、こんな悼辞を送っている。
「オーディション会場で出会い、お互いに合格してから、5年間ずっと、ほとんど毎日一緒で、家族より長い時間をNHKで過ごしました(略)全国の沢山の子供達、ご家庭に歌を届けられて聴いて頂けて、一緒の時間が過ごせた事、本当に幸せでした」
私事ながら、その「ご家庭」には筆者の家族も含まれる。番組を視聴するだけでなく、ふたりが全国を回ったコンサートツアーにも妻子と3人で出かけた。今井は人生の一時期をよりよいものにしてくれたひとりなのだ。彼の歌と笑顔に元気をもらった子供たちとその親たちにとって、その早すぎる旅立ちはまさに「隣人の死」だったといえる。
そして、3月には、日本人の多くが「隣人の死」として受け止めた衝撃的な最期があった。志村けん(享年70)だ。
訃報から約9ヶ月が過ぎた大晦日の「NHK紅白歌合戦」でも、嵐が一年を振り返るなかでリーダー・大野智がこんな言葉を発した。