「志村けんと岡江久美子、他人事だったコロナ観を変えた隣人の死」2020(令和2)年その1【連載:死の百年史1921-2020】第5回(宝泉薫)
連載:死の百年史1921-2020 (作家・宝泉薫)
「大事な人を突然失って、呆然としたメンバーもいた」
これは長年「天才!志村どうぶつ園」(日本テレビ系)に出演し、その後継番組「I LOVE みんなのどうぶつ園」を引き継いだ相葉雅紀のことだろう。この言葉にはかなりの人がピンと来たようで、それはまさに、志村が多くの日本人にとっての「隣人」だったからに他ならない。
というのも、1970年代後半でのブレイクから40数年にわたって、志村は人気芸人であり続けた。特に子供の人気が高く、当時の子供はもとより、その後もほとんどの子供がファンになっていく。大人は大人で、笑いへのストイックさや色気、遊びっぷりに惹かれ、近年では老いによる哀感にも親しみを覚えるようになっていた。
本人もそのあたりを意識してか、芸人としての美学で控えていた役者業を解禁。NHKの朝ドラ「エール」への出演や映画「キネマの神様」での主演を承諾して、晩年の新境地を拓こうとしていた。しかし、突然の死により前者は完走できず、後者は代役に譲ることになってしまう。その夢を阻んだのは、新型コロナウイルスによる肺炎である。
そう、彼の死は極めて「時代的な死」でもあった。中国・武漢での惨状がまだ対岸の火事のようにも思えていた時期、その脅威を日本中に知らしめたのだ。コロナ禍と有名人の死という意味において、最初の衝撃であり、現時点では最大の衝撃でもある。これにより、多くの日本人がけっして他人事ではないという思いにいたった。これも「隣人の死」の効用であり、緊急事態宣言よりも彼の死が感染対策につながったとまでいわれるゆえんだ。
そういう意味では、岡江久美子(享年63)の死にも近いものを感じた。こちらは志村の翌月、やはり新型コロナウイルス肺炎によるものだ。彼女もまた、昼ドラ「天までとどけ」の母親役や生活情報番組「はなまるマーケット」(ともにTBS系)のMCとして、隣人のように親しまれた芸能人であり、それゆえ、コロナ禍を身近なものに感じさせた。
印象的だったのは、ひとり娘である女優・大和田美帆の言動だ。訃報のあと、彼女のツイッターを見ると、岡江の感染は明かさないまま、入院していた17日間に何度もコロナへの注意喚起をツイート。亡くなる前日には、
「だから絶対かからないようにするしかないんです。うつさないようにするしかないんです。コロナ、怖いんです。そのためには、どうか家にいれる人はいましょう。お出かけは、自粛しましょう。自分のためにも医療従事者の方々をこれ以上苦しめないためにも」
と、訴えかけていた。また「ここ数日、亡くなった祖父に会いたくて仕方がない。おじいちゃーん!!」と、母方の祖父への思いもツイート。面会すら禁じられた状況で、不安と孤独にさいなまれていたことがうかがえる。岡江の最期は、コロナ感染による死別の特異性も浮き彫りにした。