【教育×ICT】電子化するだけの『GIGAスクール構想』に意味はない
第61回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-
■目的はデジタル化ではなく「教育の改革」
文科省が2019年12月に打ち出したのが「GIGAスクール構想」について、同省は『GIGAスクール構想の実現へ』というリーフレットで次のように説明している。
「1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する」
夢の広がる表現である。この構想が実現すれば、誰一人取り残すことのない教育が実現され、個々の資質や能力が確実に育成できる教育への道が実現されるというのだ。
また、リーフレットからは現状のインフラが不十分であること、そして、それらが教育における問題であることを、文科省も認識していることがわかる。だから、改革しようというのが構想の柱なのだ。
GIGAスクール構想を推進するために、文科省がアピールしたのが、学校におけるICT利活用が国際的に遅れているということだった。先のリーフレットでも、「後塵を排している状況」との表現でデータが引用されている。そのデータは、OECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査(PISA2018)の「ICT活用調査」である。
ちなみに、この2018年実施の「PISA2018」(2019年12月発表)は、日本が「読解力」で参加国のなかで15位と、調査開始以来の過去最低となったことで話題となった調査だ。そのとき文科省のGIGAスクール担当者が、「読解力より深刻ですよ」と訴えていたのが、ICT活用だった。
どのように「後塵を拝している」のかといえば、調査によればICTの学校での使用頻度が、「毎日」と「ほぼ毎日」を合わせるとタイやデンマーク、アメリカなどは30%近くに達しているにもかかわらず、日本は数%でしかない。これは加盟国のなかでは最下位なのだ。
これほど遅れをとっているのだから、早く「追いつき追い越せ」が文科省のスタンスだった。だからGIGAスクール構想実現を急がなければならない、というわけだ。
ただし、構想の実現を早急に進められるとは、当の文科省も考えていなかったはずである。構想実現にはICT機器の導入が大前提であり、それには多額の予算が必要となる。そこをクリアするには財務省の厚い壁を崩す必要があったからだ。
しかし、そこに追い風となったのが新型コロナウイルス感染症である。一斉休校になりオンライン授業が注目されるなかで、2023年度末を目標にしていた「1人1台端末」の実現が、今年3月末までの実現へと前倒しとなったのだ。
前倒しとなったことで、ICT端末の供給が間に合わないという状況まで起きている。1月12日の文科省ホームページでの「新春インタビュー」で萩生田光一文科相が導入の遅れている自治体に対して急ぐよう催促しているが、担当者にしてみれば頭の痛いことだろう。
1人1台端末が前倒しで実現することに伴い、文科省はデジタル教科書の使用を授業時数の2分の1としていたこれまでの基準を撤廃することを決めた。この件については、本連載でも触れている。
文科省が基準を撤廃したことで、学校ではICT端末とデジタル教科書を利用した授業が一気に広まるという見方が広まっているようだ。そうなれば、「PISA2018」で最下位だったICTの学校での使用頻度は一気に高まることになるだろう。
PISAの次回調査は2022年が予定されており、結果の公表は2023年になるはずだが、そこで日本は最下位からトップに躍り出る可能性も高い。日本政府や文科省は、鼻高々となるはずだ。
しかし、1人1台端末が実現し、使用基準が撤廃されてデジタル教科書が一気に普及したとしても(ここにも財務省の厚い壁が立ちはだかる)、GIGAスクール構想で提示された「教育の改革」は実現するのだろうか。
その問題を考えるにあたっては、デジタル教科書について考えてみる必要がありそうだ。いったい、デジタル教科書とはどういうものなのだろうか。
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