「悪霊」としてのトランプ現象【仲正昌樹】
トランプ大統領支持者による連邦議会議事堂乱入事件(6日)は世界に衝撃を与えた。5名が死亡し、民主主義国家を謳うアメリカにとっては「恥辱の日」とも言われる。米下院は13日、トランプ大統領が支持者をあおり連邦議会議事堂を襲撃させたとして、罷免を求める弾劾訴追決議(起訴状に相当)案を賛成多数で可決。トランプ氏は2019年の「ウクライナ疑惑」でも弾劾訴追されており、米史上初めて2回弾劾訴追された大統領となった。連邦当局はこれまで、6日の議事堂乱入に絡み、100人以上を起訴しているが、20日の就任式までにトランプ支持者が反撃にでるとも言われている。「連邦議会議事堂乱入事件はなぜ起きたのか?」「この状況はアメリカの民主主義においてどのような影響を今後与えていくのか?」。各紙新聞書評で高評の『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』の著者である哲学者・仲正昌樹氏が、トランプ劇場の核心を「ネットと民主主義」の関係性から読み解く。いま必読の論考。
一月六日、アメリカでは、大統領選の選挙人による投票結果を確認するための上下両院合同会議が開かれた。通常の大統領選挙ではほとんど注目されることのない単なる儀式だが、今回は、トランプ大統領とその支持者たちが選挙に不正があったと強く訴えていたため、全く異なった様相を呈していた。副大統領や議会共和党が積極的に動いて、トランプ氏が“真の勝利者”と認定しない場合、戒厳令が出され、陰謀の首謀者であるペロシ下院議長等が逮捕される、との情報がネット上で飛び交った。
そうした本格的な内戦状態には至らなかったものの、トランプ大統領の呼びかけに応じた支持者たちが議会に侵入して一時占拠し、警官隊との衝突で双方に死者が出る、という異例の事態に至った。この反動で、トランプ大統領に忠誠を誓っていた共和党議員たちも、バイデン前副大統領が次期大統領であることを認め、下院で大統領弾劾決議が可決された。TwitterやFacebookがトランプ大統領のアカウントを凍結し、アメリカ政治の中枢にいるはずの大統領の孤立が際立つことになった。
どうして、ここまでもつれてしまったのか。
トランプ大統領の特異なキャラクター、共和党の変質、グローバリズム/反グローバリズムの対立、治安と人種問題、白人貧困層の不満……など、様々な要因を挙げることができるが、敢えて一つに集約すれば、SNSを中心とするネットに依存しすぎる政治の弊害が一挙に噴出した、ということだろう。周知のように、元々実業家だったトランプ氏はリアリティTVや深夜トーク番組、ドラマ等に出演し、個性的なタレントとして知名度を上げた。刺激的な映像で視聴者を引き付けるテレビの特性を利用して政治に進出したわけである。
二〇一六年の大統領選では、ヒスパニック系の不法移民やムスリム系の人たちを敵視する過激な発言で注目を集めた。それに反発して反トランプの姿勢を鮮明にした民主党などリベラル勢力との敵対関係を鮮明にすることで、リベラルの主張に欺瞞を感じる白人貧困層などを味方にする戦略を取った。
アメリカのリベラルは、大きな政府によって、黒人やヒスパニック、女性、性的マイノリティなど社会的弱者を支援し、メインストリームである白人男性プロテスタントと経済的・社会的に平等にすることを目指してきたとされる。しかし、白人貧困層の中には、“弱者”と認定されていない自分たちはリベラルな政治で置き去りにされている、それどころか、アファーマティヴ・アクション(積極的是正措置)で逆差別を受けている、という不満を抱く人たちが少なからずいた。