不動産の世界はしばしば海に例えられる。不動産に魅入られて挑戦した者の多くが海の底へと沈んでいった。それでも海に挑む者は後を絶たない。そこには見たこともない財宝が眠っているからだ…。
　本記事は、不動産業界という大海を渡り、財宝を発見するための航海術を記した辞典であり、大手デベロッパー、大家、地主、ブローカー、地場管理会社の4人がそれぞれの立場で、奥深き賃貸の世界を語りつくしたものである【以下「全宅ツイ」メンバー参照】。

■白砂糖は正解、ところが砂糖には黒いものもある？

解説：【ありよび】
ネットに掲載した物件は顧客の目に止まるくらいの優良物件、顧客が来店するまでのタイムラグでなくなる確率は高いが「ありますよ」と呼び理由をつけて、別物件に振り替えするのが「ありよび」と呼ばれてます。「ある」って言って呼んだら、すぐ店の下にいる時もあるから、注意が必要な技だ！ 

あくのふどうさん（以下・あ）：これ「大技林」でいいのかな（笑）。

野球くん（以下・野）：「おとり広告」（注①）ってやつじゃ。

はとようすけ（以下・よ）：イケイケな賃貸業者はまだやってると思いますよ。

あ：広告用にホントに一室逆ザヤサブリース（注②）で借り上げて、おとり広告かわしてる、女子アナ失格がいました。

よ：広告用で数年前の図面登録してる業者も処分されてますね。

あ：ちなみに、はとさん…これやったことは？

よ：あ、いや…ふがふが（聞き取り不可）…

野：お客さんきました？

よ：来ましたよ。カウンター座って言い訳するんすよ。嫌悪施設（注③）とか。今はやってないです。ないものは「ない」って正直に言います。大昔の話です。

■賃貸なら一室借りてルアー釣り！

野：賃貸は手軽なんでしょうかね。一室地元のいいのを借りとけば。売買だと今はやりにくい。

よ：売買はしたことないです。

野：客付け（注④）賃貸は、まずお客さん来店しないと商売にならないですからね。決める速度感も賃貸は速いから。

よ：賃貸なら普通は契約率4割くらいですね。中には10割契約する化け物いますけど。

あ：たしかに、それはありますねー。

よ：もちろん、本当に良い物件は業者専用サイト、レインズ（注⑤）に登録されて、民間のポータルサイトに転載されるまでタイムラグがあるから…今日あっても明日ないとか仕方ないんですが。

野：今日物件あるって行って、店に翌日行ってなかったら帰りたくなる。

よ：帰らないで！　話だけでも聞いてあげて（笑）。本当に借りたいニーズを掘り出すのが営業だから。反響が鳴る物件と契約する物件は大体違うもんすよ。

あ：ちなみに、いまはこれやると指導とかかかるんですか。

よ：都市整備局（注⑥）かと。

あ：うへー。取り消しまであるやつか。

よ：専任（注⑦）未登録とかと同じレベルすよ。処分された業者を見ると、主任者いないパターンか、広告違反が多かったすね。

あ：囲い込み（注⑧）とかと一緒で、対お客さん向けのウル技ですね。これはどうですかねー。業法的には厳しいし、アウトなのかな…。

野：こういうわかりやすい嘘は業界全体のイメージを落とすのでアウトにしましょう。

【解説】
注①　おとり広告：客寄せのための架空広告のことで、広告規約で禁止されている。

注②　一室逆ザヤサブリース：サブリース（家賃保証）の賃料が実際の賃料より高くなければいけないところを、大幅に安くすること。

注③　嫌悪施設：住宅地の地価に影響を及ぼすマイナス要因を持つ施設。具体的には、風俗店、騒音や大気汚染を引き起こす公害発生施設、火葬場、廃棄物処理場、下水処理場、原子力関連施設、軍事基地、刑務所、ガスタンク、火薬類貯蔵施設など。人に嫌悪や不快、不安を感じさせるものを言う。

注④　客付け：部屋を探す人と、入居者募集の物件をマッチングさせること。

注⑤　レインズ：国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているネットワーク・システム。会員以外は閲覧できない不動産情報が載っている。

注⑥　都市整備局：都市計画局、住宅局、建設局市街地整備部、多摩ニュータウン事業部が再編されて東京都庁内に置かれた局。都市整備の計画から事業実施まで、幅広い領域を所管する。

注⑦　専任：媒介契約を1社に限定すること。

注⑧　囲い込み：売主から依頼された売却の物件を、他の不動産会社に契約させないこと。別の会社から問い合わせがあっても「その物件はすでに申し込み済みです」と嘘をついて、紹介させない。