「全米ライフル協会」テキサスに移転はアメリカ合衆国で内戦が起きる予兆?
武装権を否定されたアメリカ人は共和国の市民じゃない
アメリカの有力ロビー団体のひとつ、「全米ライフル協会」(NRA)は15日に米連邦破産法11条の適用を申請し、事実上の経営破綻をした。NRAは銃砲規制の強硬な反対派として議会に影響力を持ち、トランプ米大統領の支持基盤でもある。NRAの最高経営責任者・ラピエール氏は「ニューヨーク州の腐敗した政治環境から解放される。ニューヨーク州を捨て、テキサス州で再編を目指す」と声明を発表。それ以前にトランプ氏は、NRAに対してテキサス州への移転を提案していたのだ。バイデン大統領が誕生した今、このことはいったい何を予兆させるのか? 反銃規制団体「NRA」の動きからアメリカの未来を考えるのは、元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)で「アメリカの国民的作家」であるアイン・ランド研究の第一人者、藤森かよこ(福山市立大学名誉教授)氏。近著『馬鹿ブス貧乏な私たちを待つ ろくでもない近未来を迎え撃つために書いたので読んでください。』がベストセラーの藤森氏は語る。「これはアメリカ人に自らの原点を問い質す重大な問題を孕んでいる」と……。
■全米ライフル協会がテキサスに逃げる?!
大手メディアはそう報じていないが、大統領就任式が終わってもバイデンを大統領として認めない人々の動向から目を離せない。内戦状態が起きると予測する人々もいる。
ほんとうにアメリカに内戦状態が起きるかもしれないと私がリアルに思ったのは、全米ライフル協会=NRA(The National Rifle Association of America, https://home.nra.org/)が、ニューヨークからテキサスに拠点を移すと発表したからだった。
周知のようにNRAは500万人の会員を擁し、銃規制をめざす民主党に反対し、反銃規制活動を展開してきた。NRAは、共和党を支える組織の主要なひとつでもあり、トランプの支持基盤でもある。
NRAは、2020年8月からニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官(Letitia James, Attorney General)から解散を命じられていた。彼女は銃規制を促進したい民主党員である。
なぜNRAが解散を勧告されたのかといえば、NRAの最高責任者(CEO)であるウエイン・ラピエール(Wayne LaPierre:1949-)やその他の幹部が、NRAが受けた寄付金を私用流用してきたからである。
厳しく批判され解散を勧告されてきたラピエール最高経営責任者(CEO)は、1月15日に非営利団体として登録しているニューヨーク州に破産申請をした。「ニューヨーク州の腐敗した政治環境から解放される。ニューヨーク州を捨て、テキサス州で再編を目指す」と述べた。
加えて、NRAは、1871年創設以来、本部を首都ワシントンD.C.近くのヴァージニア州フェアファックスに置いてきたが、これもテキサスに移転させることを検討している。
それに対して、ジェームズ司法長官は、「破産しても我々の監視から逃れることはできない。(寄付金の横領脱税という)潜在的犯罪の市民としての説明責任(accountability)から逃れるための破産など認めることはできない」とコメントした。
NRAが追い詰められている。幹部の油断と杜撰さが原因とは言え、反銃規制派の牙城が、今までになく激しく脅かされている。
■銃の所持はアメリカ建国の理念にかかわる
日本の歴史においては、武士以外の僧侶や農民や商人から武器の所有を放棄させることである「刀狩り」が、たびたび実行された。きわめつけは、豊臣秀吉政権により1588年(天正16年)に布告された刀狩令だった。ここで徹底的に庶民の武装解除がなされた。
そんな歴史を持つ日本人から見れば、「反銃規制活動をする全米ライフル協会」は、とんでもない暴力団体に見える。しかし、それは間違っている。アメリカの銃文化には、それなりのもっともな理由がある。
ライフル(小銃)は、アメリカ人にとって共和国アメリカ合衆国の建国にまつわる象徴的意味がある。アメリカ合衆国は、アメリカ北米大陸に植民した人々が狩猟に使用するライフル(小銃)を手にして宗主国イギリスの正規軍と戦って建国された(ということになっている)。
これは、あくまでも「建国神話」らしい。援軍のフランス軍の持つ豊富な武器弾薬がなければ、大陸軍の民兵だけではイギリス正規軍とイギリスが雇ったドイツの傭兵には敵わなかったという説もある。どこの国にも神話はある。