なぜ自宅を書店に? 芥川賞作家・柳美里さんが福島で進めるプロジェクト
福島・小高に来春開店へ、カフェ併設も
■「住民としてできること」を
作家・柳美里さんが今春、福島県南相馬市小高区で書店を開店する準備を進めている。クラウドファンディングもはじめ、1カ月余りでその支援額は300万円を超えた(https://motion-gallery.net/projects/fullhouse-odaka)。
東日本大震災起きた2011年3月以来、原発事故もあいまり大きな被害を受けたこの地域は「警戒区域」に指定された。2016年7月に避難指示が解除されたものの、帰還者は30%弱。これは南相馬市にある3つの地域自治区のなかでももっとも少ない数字だ。
(小高区)12,842人→2,412人
(鹿島区)11,603人→10,894人
(原町区)47,116人→41,036人 ※出典:南相馬市HPより
震災前から小高区には書店がなかった。震災前の数年で2店が閉店して以来、書店に行こうと思えば電車や車で30分以上かけて他の区まで足を運ばなければならない。柳さんが書店を作ることを発表してから、「ここが書店になる場所ですか?」と尋ねてくる人があると言う。
「いいどなぁ、本屋。原発事故でなぁんにも無ぐなっちまったんだもの。楽しみだごどぉ。早くできっといいどなぁ。本屋できたら、毎日来っから。武者小路実篤が大好きだがら、よく手紙さ引用してんだ」
さまざまな理由から小高に戻ってこれない人々が、いままさに日々の生活を営んでいる地元民が、心待ちにする場所。それが柳さんの書店なのだ。
2015年に鎌倉から南相馬へ転居していた柳さんは、書店を開業するために自宅、土地を購入して昨年7月に小高へと移住した。
「住民として何ができるか、わたしにできることはなんだろうと考えた結果」
柳さんは自宅を書店にしようと思った理由をそう語る。
「常磐線のダイヤは1時間~1時間半に1本しかない。高校生が帰宅する電車を待つ間に読書やおしゃべりや宿題ができたりする場所、他の地域に避難していて一時帰宅する人や高齢者が気軽に立ち寄ったりできる「居場所」になれば」
もちろん、道のりは簡単ではない。銀行に融資の相談をすると、「小高に書店ですか? それはボランティアですよ」と相手にされなかった。それでも、柳さんの志に賛同した人たちの輪は広がり、多くの協力者を得てここまで進めてきている。クラウドファンディングをはじめ、官民問わず協力を仰ぐために折衝を重ねる。
最終的な目標がある。地震、津浪、原発事故、風評被害(放射能汚染差別)によって大きく傷ついた住民たちと共に、過去と未来に誇れる物語を創っていく、旧「警戒区域」に「世界で一番美しい場所」を創出すること。
今春の書店だけでなく、秋には小劇場もオープンの予定だ。