「快楽主義」の祖が作った秘密の庭園。好奇の目で見られた日常
天才の日常~エピクロス
エピクロスにあった禁欲主義
こういったエピクロスの考え方は、実際には対立するストア派の禁欲主義に通ずるところもあるのではないだろうか。ストア派が目標とするのも、理性によって心の動揺を制御することで心の平静(アパテイア)を得ることであり、欲望によって心がかき乱されないような生き方をすることだからである。
エピクロスは若い頃から身体が弱く病弱で、車椅子に乗って「庭園」の中を移動していた。それでも70歳まで生きながらえたのだから、かなりの節制を心がけていたのだろう。
だが、最期は腎臓結石を患い、二週間ものあいだ激痛に苦しんで亡くなった。死の間際に書いた友人宛ての手紙に、次のような言葉が残されている。
「わたしの生涯最後の日でもある、この祝福された日を迎えながら、わたしは君に次のことを書き記しておく。排尿の困難や赤痢の症状は相変わらず続いており、その度を超えた苦痛は去らないでいる。しかしわたしは、君とこれまでに交わした対話を想い起すことで、魂における喜びをこれらすべての苦痛に対抗させているのです」
エピクロスは死後の世界や転生があるとは考えず、死とは快楽と苦痛を感じる感覚が消失することと考えていた。自分に死が訪れる時、自らの感覚は消失しているのだから、何も感じなくなっている。だから、恐れることも何もないというのが死に対するエピクロスの考えである。むしろ、腎臓結石の激痛から解放されることを喜ばしく思ってさえいたのだろう。こうして彼は、最期まで心の平静を保ち、魂の快楽の中で人生を終えたのである。