最善のがん治療。医師へ相談せずに選べるか
1万人以上のがん患者を治療する放射線治療専門医が語るがん治療最前線
私は、彼の人生観を優先し、二つの治療法を提案しました。
一つは、原発巣と縦隔リンパ節を含めた範囲に六週間、平日、毎日照射する方法。縦隔リンパ節にも治療を行える一方で、制御率はさほど高くありません。
もう一つは、縦隔リンパ節が増大したら、さらに放射線治療を検討することを条件に、原発巣にのみにSBRT(体幹部定位放射線治療)を行うというもの。こちらは治療期間が短くて済みますが、縦隔リンパ節に転移があった場合増大して、治療が後手に回る可能性が考えられます。
彼は後者を選択しました。幸いなことに、八年以上経過した今も増大は見られずに元気に過ごしています。
このように、患者さんと医師の間に信頼関係が築ければ、シェアードディシジョンモデルは二人三脚で戦っていける理想の意思決定方法となります。
■簡単ではないインフォームドディシジョンモデル
インフォームドディシジョンモデルは、医師が多くの情報を患者さんに提供するという点については、シェアードディシジョンモデルと同様です。
それに加え、患者さんが自ら、患者会に出席したり、インターネットで検索したりという具合に、積極的に情報を集め意思決定を行います。
インフォームドディシジョンモデルでは、医師の情報の役割が相対的に低くなります。そのため、治療方針を選択する背景があまり複雑でないときに限られます。
この方法は、しっかりと自分の意思を持っている患者さんが好みます。ただし、患者さんが集めてくる情報が、どこまで正確なものかわからないという危険性があります。
つまるところ、患者さんだけによる完全な意思決定というのは現実的ではありません。専門的な知識が欠けている患者さんが間違った治療法を選択したとき、医師はそれをみすみす見逃すわけにはいかないからです。医師である以上、診療の責任をすべて患者さんにおしつけることはできません。
(『最新科学が進化させた世界一やさしいがん治療』より構成)