世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。
連載:植物採集家の七日間
■植物を仕事にする人は、人嫌いか元病人?
予定通り独立したが、会社員の時と同じように生きていては40代でお墓を建てることになりそうだった。中長期的に走っていくには、ペース配分をしてくれる何かが必要な気がした。仕事をしなければ生きていけない。私の場合は今までに培ったデザインや新規事業、ブランディングに関わる事からはじめるしかないが、正直なところお腹いっぱいだった。だから、かけ離れていて一番好きなものをもう一つの武器として選んだ。植物だ。
植物を仕事にする人は、他業種と協業することが圧倒的に苦手なようだった。私には「他者が考えていることを言語化し、異なる分野の人と意思疎通できるように翻訳し、様々な形にアウトプットするスキル」がある。ハーブやアロマ、園芸に建築・都市計画、民藝など、専門領域の基本知識も持ち合わせている。「植物と植物の世界で生きる人の可能性を広げることに役立てるのではないか?」と考え、古今東西の植物の知恵を伝えて繋げていこうと決めた。
特にアロマやハーブを学んでいる人は体を壊した元病人が多い。私なら彼らに共感できるだろう。そんな思いもあった。出張先で眠れない夜、アロマオイルの小さな小瓶に何度も縋った。おしゃれなアロマディフーザーはないけれど、ティッシュに1滴オイルを垂らして胸元に置けば十分だ。「明日、ちゃんと目が覚めて仕事ができますように。誰にも迷惑をかけることなく1日が終わりますように。」
保育園の頃、みんなと一緒にお昼寝ができなくて問題児だった。お昼寝布団に母がラベンダーのポプリを縫い付けてくれた。その頃から全く成長していない。植物は私にとって、ビジネスパートナーや武器ではなくお守りだった。
■癒しの時代は病んでいる時代。あなたの野性を、引き出す植物
現代の植物療法やハーブ・アロマなどの本を読むと必ずあるのが「癒し」と「時代の変化」だ。2000年代なら理解できるが、私の両親が生まれた頃から同じような前書きの本がずらりと並ぶ。それどころか、鎌倉時代に明菴栄西が書いた喫茶養生記の古典や、中世ヨーロッパ、ドイツのヒルデガルト・フォン・ビンゲンの教えも心が乱れ、行いが悪くなるため不健康となり苦しんでいるというのだ。疲れ切った現代人が溢れる世界は何十年も続いていて改善の傾向が見られないどころか、おそらく人類誕生から延々と続いている。
国内外の先端医療、予防医学の情報をピックアップしてもそうだ。問題は、心にあるのか、体にあるのか。私はそのどちらでもあり、別にあると思う。心や体ではなく、環境を変えるべきだ。植物は心と体、そして環境を変えることができる。
どれだけ植物採集を続けても、クレオパトラの秘薬や、クリスタルスカルのような秘宝は見つからないかもしれない。けれど、実際に世界を変えてくれるのは、いつもそばにあり気にも留めないような植物かもしれない。
人間らしさとは本能=野性と理性の両輪が必要だ。このシーソーがうまいこと行くように、あなたの野性を私が引き出してみせる。植物を使って。
【植物採集家の七日間:毎週月曜配信】
次回は植物採集の旅がスタートします。「沖縄の月桃農場で出会う、薬草の魅力。」
南国で育つ月桃の生態、沖縄の生活に根付いていた食や住まい、美への活用について探究していきます。