沖縄の月桃農場で出会う、薬草の魅力。【植物採集家の七日間】
「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第2回
■本当に必要とされる植物は、名前すら忘れられている
植物採集において、自生、栽培・加工されている現場へ行く事は何よりも大切である。私が知りたい植物に関しては、ほとんど本や論文がないからだ。メジャーな野菜などであれば話は別だが、月桃など限られた地域で育つものを見つけることは非常に難しい。
しかし、事前の調査を疎かにすると、植物採集の現場で十分な収穫を得ることはできない。危険なのは旅に行くだけで、何かを成し遂げた気になってしまう事かもしれない。しっかり調べあげ、その上で手に入らなかったことを見つけに行くのがフィールドワークだ。本やインターネットで調べた情報ではなく、「沖縄の生活に実際にどのように月桃が取り入れられているのか」という発見と再定義に価値がある。
プロデュースする立場なのでよくわかるが、「海外でも○○は大人気!」という様のプロモーションは怪しさ満載である。現地の人には相手にされず、観光客がカモにされている…ということは非常に多い。こうしたフェイクに惑わされず、地味だと感じるものでも役に立つ実利を見極めるセンスが大切。本当に必要とされているものは名前すら忘れられ、粗末に扱われていることが多いからだ。
月桃農場に視察を受け入れてもらい、準備万端。緊急事態宣言を受け、足止めをしながらの訪問は一生のうちでそう何度もないだろう。不自由があるからこそ、自由の価値に気がつく。ようやく、恋焦がれた沖縄の地にたどり着いた。
■甘くスパイシーな香り、南国の楽園月桃農場
出迎えてくださったのは日本月桃株式会社の碓井(うすい)社長。そして、可愛らしい二人のおばぁとおじい、2匹の猫たち。本の中では見つけることの出来なかった、めくるめく月桃の楽園が広がっていた。
私が知る月桃の主な使い道は2つ。月桃の葉を刻んで乾燥させたハーブティと、生葉を蒸留して抽出した精油によるアロマセラピーが思い浮かぶ。ハーブティ用の月桃の葉はポリフェノールを多く含み、その量は赤ワインの数十倍ほどと言われ、沖縄の長寿に貢献していると一部では話題に。精油は甘く柔らかくありながらもスパイシーな香りで安らぎを与えるとして、抑うつ、生理前症候群のケアなどに多く用いられる。美容においては、精油を作る際に副産物として出てくる芳香蒸留水を使った化粧品も開発され人気だ。これらの使い方は、本やセミナー会議室での話だ。月桃が自生する沖縄では実際にどのように使われているだろうか。