沖縄の月桃農場で出会う、薬草の魅力。【植物採集家の七日間】
「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第2回
■葉も茎も花も実も、底が見えない月桃の可能性
視察の結果判明したのは、驚くほどの幅広い用途。七変化する月桃の姿に驚くばかり。
まず、葉も茎も花も実も全部使える。食料品、嗜好品や美容に役立つだけではなく、住まいや生活用品、漢方薬にと多様に展開されていたのだ。
沖縄では月桃茶は葉だけではなく、実も使われている。これがなんとも香ばしく、奥行きのある味わいで美味しい!葉と実のブレンド茶も美味しい。同じ植物を部位ごとに分けて使うことはあるが、合わせて味わうことは珍しい。供給量や価格の都合で県外へ出荷するところが少ないそうだ。漢方としては白手伊豆縮砂(シロテイズシュクシャ)をいう名前となり、胃腸薬、整腸薬として使われている。
地上部に生える茎は、「月桃紙」としてインテリアの壁紙や、文房具などにも使われている。実際に作業させていただいたが、実を取り、葉を切り落とした茎の重量はなかなかのもの。これをローラーで押しつぶし和紙の原料とするのだ。沖縄の学校ではこの月桃紙による卒業証書を贈られるそう。
お馴染みの精油は2種類を紹介してもらった。「シマ月桃」学名Alpinia zerumbetと「タイリン月桃」学名Alpinia uraiensisでは同じ量の生葉を入れても蒸留で出来る精油の量は4倍も違うそうだ。当然価格は希少な「シマ月桃」が高価になる。成分が大きく異なり、香りの印象も別の植物のよう。「タイリン月桃」はすっきりとしたティーツリーに近い香り。「シマ月桃」は優しくて、エキゾチックな甘さを持ち合わせる。精油を作る過程の副産物である芳香蒸留水。かつては廃棄されていた芳香蒸留水もアロマセラピーが普及したおかげで見直され、化粧水として活用の扉が開くことに。「捨てていたものは、まさかの宝だった!」と嬉しそうに驚く碓井社長は私の中では沖縄のインディージョーンズだ。
栽培と収穫の様子も興味深い。月桃は土の下に広がる地下茎を介して横へ、横へと繁殖し、1年に何度も収穫が可能である。しかも、月桃には昆虫禁忌効果を活用した虫除け商品もあるくらいなので無農薬でよく育つ。農家からみても非常に優秀な植物なのだ。碓井社長の農園では行なっていないが、月桃の根茎や葉で染めた草木染めはなんとも愛らしいピンクに仕上がるそうだ。