カレン・カーペンターの死と38年後の痩せ姫たちをめぐる「恐ろしいこと」
最近では、NiziU(ニジュー)のミイヒの激痩せと休業、復帰が話題になった。ほかにも、長濱ねるや壇蜜、浜辺美波、尾形春水、さらには愛子内親王といった人たちが痩せたことで注目されたが、有名人のこうしたニュースにはかつてほどの驚きがなくなっている。カレンやりえに匹敵する衝撃はしばらくもたらされないのではないか。
それでも、数十年間のなかで大きく変わることもある。たとえば、吐き方だ。ここ数年、チューブを使った吐き方が目立つようになってきた。ホームセンターで売られているようなホースなどを喉から胃に入れて、食べたものを排出する方法である。
そういえば、前出の小説「鏡の中の少女」にはヒロインが入院仲間についてこんな話を聞かされる場面がある。
「棒みたいな、なにかそんなものの束を全部盗んじまったらしいよ。看護婦は酸素用のカテーテルとか言ってた。マーナは、それを喉につっこんで吐いていたんだって。指じゃあ、もう吐けなくなったらしいよ」
この邦訳が文庫本で出版されたのは87年で、筆者はすぐに読んだが、当時は「指吐き」の延長だと理解していた。指よりも長くて硬いものを突っ込まないと吐けなくなったのかと思ったものだ。
しかし、これはチューブ吐きである可能性もある。医療用カテーテルも、ホースと同じように使えるからだ。過食嘔吐に関して、米国はひと足もふた足も先に増加していたから、この吐き方が広まるのも早かったのかもしれない。
なお、筆者が「痩せ姫」という言葉を作ったのは今から11年前の2月だが、当時と比べても、この吐き方はポピュラーになった。ハイリスクハイリターンで、一度ハマると抜け出しにくく、後悔する人も多いという意味で、禁断の吐き方であるにもかかわらず、ハードルが低くなってきたのだ。
それこそ、SNS上でコツを教えたり、そのおかげで成功できた人がお礼のプレゼントをしたり、という光景も目撃したりする。もっとも、そういうことをよしとしない人もいて、最近コツを教えていた人は謝罪に追い込まれていたが、つまりはそれほど、とにかく痩せたいという人にとって魅惑的な方法なのだろう。
前出の北村やカレンのように、自分を変えたい、支配したいという欲求が強すぎると、レベンクロンのいう「いろいろと恐ろしいこと」への抵抗感がうすれ、ハードルが下がる。その分、リスクは高まって、命を落としたり、人生を台無しにしてしまったような絶望に陥ったりもするわけだ。
もっとも、価値観はさまざまだし、その人にはその人の生き方がある。カレンの死から38年、その末裔たる痩せ姫たちが悔いのない日々を送れるよう願うほかない。
(宝泉薫 作家・芸能評論家)
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