特別な色とリズムが生まれる場所 沖縄のクリエイターに会いたい。【植物採集家の七日間】
「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第3回
■ホウセンカの花と草木染め 生き方をデザインする人
アパレルブランドの作家、中嶋さんには草木染めとホウセンカについてお聞かせいただいた。ブランド名であるtouch me notとはホウセンカの英語名称だ。沖縄ではてぃんさぐぬ花と呼ばれ、「てぃんさぐぬ花」という童歌があり、おまじないや言い伝えもある。ホウセンカの汁を爪に塗って染めると悪霊(マジムン)除けの効果があるとされ、沖縄の暮らしや思想において身近な植物の一つだ。
植物を軸に沖縄をのぞいてみると、生活の中に根差した植物療法や歴史があり、独特の文化を見ることができる。
取材に行きたいと伝えると快諾してくれただけでなく、アトリエに先日まで開催していた展示を再現してくれていた。その上、前日が月桃農園の取材だと知ると予定していた紅花での草木染めを変更し、自宅の月桃を採集して月桃染の準備をしてくれていたのだ。
アトリエに到着すると、黒の艶やかな毛と愛らしい瞳の元保護犬ルナちゃんが出迎えてくれた。touch me notの色とりどりの服が並び、月桃の葉が瑞々しく活けられていた。touch me notの服を紹介するときにいつも、商品と言っていいのか、作品と言っていいのか悩んでしまう。染色された服に同じ色のものは無い。中嶋さんは自分の手ではじめられることを…と考え、ミシン一台からスタートできるアパレルブランドをスタートさせた。服を作るには様々な工程があり、分業する人もいる。中嶋さんはデザイン、生地選び、染色にパターン起こし、縫製と全て自身で手掛けている。
私は5年前に中嶋さんの服に出会ってから、東京でほとんど服を買わなくなった。touch me notからは「着て欲しい、そして幸せな気持ちになって」というメッセージが聞こえるが、量販店では「買って欲しい、これが流行だから」という声が強く聞こえる気がした。商売は好きだし、お金は大事だがそれが全面に出る時や、理念が全く感じられないと連れて帰る気持ちは一気に薄らぐ。中嶋さんによってひと針ごとに、愛情と美意識が詰められた服に袖を通す喜びは格別だ。
草木染めに関しては中嶋さんも挑戦しようか考えていたそうだ。しかし染色の工程について熟知されているので、思うところがあるようだった。天然染料を使う草木染めは環境に良いイメージが強く、柔らかな風合いも出るので近年人気が再燃している。一方で、百貨店などへ一般流通させるときは褪色や耐久性などの懸念事項が出てくる。化学を使う合成染料は、化学物質という名前が出ただけで印象が悪くなる。しかし、実際のところ化学染料が環境や人体にとって必ずしも悪、というわけではないようだ。