「ンアーッアッンアーア!」モロッコ人と謎の言葉でコミュニケーションをとる日本人
謎の言語を操る村人、現る
■ 「ンアーッアッンアーア!」
……は? なんだこの言語は、聞いたことがないぞ。不思議に思いながら、ムハンマドさんが指さす、おれの荷車のタイヤを確認してみる。……パンクしていた。気づかなかった、なんてことだ。ムハンマドさんは驚くおれを見て、また「ンアーンアー」と訳の分からない言葉を発した。ベルベル語だろうか……
いや、違う。音域が違うし、そもそも音数が少なすぎる。
……おそらく、「お互い言葉も通じないことだし、今この場で適当に作った言語でコミュニケーション取ろうじゃないか!」といったところだろうか。
それならば、とおれもムハンマドさんに対し「ンアーッアッンアー!」と話しかける。「桶に水を汲んできてくれませんか? タイヤのチューブの穴が開いている場所を特定したいんです!」と言ったつもりなんだけど、どうやら通じたようだ。ムハンマドさんは「ンア」と言って民家の方へ歩いて行き、程なくして水の入った桶を持って来た。……ていうかこれ、ジェスチャーでよくないか? かなり恥ずかしい。が、ムハンマドさんがノリノリなので継続しよう。
そしてその後、原始人みたいな言葉でムハンマドさんとああだこうだと言いながら、何とかチューブの穴を塞ぐことができた。しかし、穴は塞いだはずなのにチューブに空気がうまく入らないという問題が発生。しばらく原因を調べるも特定できなかったので、結局次の日に六キロ離れた村のバイク屋に、タイヤだけを持って行くことにした。タイヤが片方外れている状態の荷車でおれが寝るのは危険だと考え、この日は地面でそのまま寝ることにした。この辺りは野犬が数匹いるようだったが、まぁ近づいてきたら追い払えばいいだろう。
ちなみに小猫のラテは危ないので荷車に避難させた。荷車はタイヤが外れているとはいえ水平に固定してあるし、ラテは軽いので大丈夫だろう。
そして深夜。四匹の野犬がおれを取り囲み、威嚇しながら近づいてきたので目を覚ます。眠気を引きずりながら追い払い、再度就寝。ちなみにこれまでの人生で野宿を繰り返すうちに、「耳だけ起こしたまま寝る」という芸当ができるようになっていたので、この状況はおれにとって大して危険ではなかった。野犬が来る際の音で起きられるからだ。
<『-リアルRPG譚- 行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』(電子版もあり)より構成>