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「旅立ちの日に」はなぜ卒業ソングの定番となったのか

キーワードで振り返る平成30年史 第12回

 平成に入ってより個を重んじる風潮が蔓延するとポップな、けれど泣ける曲が好まれるようになる。卒業というモチーフは感動を歌いやすく、また商業的にも旨味があることもあり、多くのアーティストが卒業ソングを生み出した。中でもいきものがかりの『YELL』やアンジェラ・アキの『手紙〜拝啓 十五の君へ〜』などは、元々がNコンことNHK全国学校音楽コンクールの課題曲として作られただけに合唱との相性もよく、平成の卒業式ではよく歌われている。

 だがそうした様々なプロのアーティストが手掛けた楽曲を上回り、あえて一曲を選ぶならというアンケートを取れば間違いなく1位になるだろう曲がある。それが『旅立ちの日に』。
 平成3年に埼玉県の公立中学校教諭らによって卒業式のサプライズとして制作されたこの曲は、その後、学校向け雑誌で取り上げられたことをきっかけに全国の学校現場に広がり、平成卒業ソング最大の定番曲となった。プロのアーティストたちによって生み出された楽曲が、個を掘り下げた歌詞ゆえに共感できる人にはとてつもない共感をもたらす代わりに一般性を持たないきらいがあるのに対し、この曲の歌詞は如何にも学校の先生が書いたという一般性のあるもの。奇をてらう箇所がない代わりに誰にでも容易に受け入れシンパシーを抱かれるような自然さをもっている。
 またメロディやコード進行も、これもNコンの課題曲だったかつての定番合唱曲『ひとつの朝』やビートルズの『LET IT BE』、さらには『G線上のアリア』を思わせるような馴染み深く歌いやすく高揚感を持ったもので、楽曲誕生のエピソードとともに定番中の定番になるに相応しい曲だったといえる。
 もっとも『旅立ちの日に』も定番化されてもう二十年。そろそろ次の定番曲が登場しそうな予感もある。

雑誌『一個人』2018年4月号より構成〉

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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