バブル崩壊からデフレ不況、そしてコロナ禍の日本のゆくえ【中野剛志×黒野伸一 対談:第1回】
この国はどうなる!? ポストコロナとMMT
黒野:今、70~80過ぎくらいの爺さんたちですよ。彼らが当時、好き勝手をやっていたわけです。その上に50代の役員というのもいたけれども、当時の50代の役員というのは、もう年功序列の社会ですから、仕事なんてほとんどやっていない。ふんぞり返って、裸の王様状態です。40代はギリギリ使い物になるんだけど、そういう連中が上の役員たちをだます。自分のやりたいものにはどんどん投資する。その片棒を担がされたのが、我々若い世代。そこは国策銀行みたいなところだったから信用も高かった。メチャクチャな投資はしないだろう、この銀行はと……。でも、内情はメチャクチャだった。不動産でいえばプロジェクト・ファイナンスもあるわけです。更地を買って、ビルを建てて、それを賃貸して長期的にいくら稼げるかとか。こういうプロジェクト・ファイナンスの場合は、絶対に審査が必要です。このプロジェクトは儲かるのかと。キャッシュフローを引いて、毎年賃料がこれくらい入ってくると。投資額の金利はこのくらいだから、5年後に損益分岐点が出るよねとか。じゃあ、100億円融資しようとか。でも、これすらやっていなかった。
中野:ひどいですね(笑)。
黒野:やっているんだけど、B4の紙に縦線引いて、何かちょろちょろ書いたものをレジメと称している。要するにポイントしか書いていない。こんなものに500億円も投資していいんですかというレベルのものです。でも、そういうものでないと、50過ぎの役員がわからないわけです。一応、キャッシュフローみたいなものは添付しないといけないわけですが、それもそろばんではじいているんですよ、40代の課長連中が。普通、長期プロジェクトと言ったら、長期ローンだから3か月で転がしていくわけです。3か月だと複利がついて、雪だるま式に借金が溜まっていくのが当たりまえなのに、彼ら、単利で計算している。こんなもの、キャッシュフローでもなんでもない。それで50過ぎの爺さんをだます。爺さんも、一応突っ込むんです。でも、突っ込みの題材もちゃんと盛り込んであって、そこを突っ込ませるわけです。
中野:お芝居だ……(笑)。
黒野:爺さんが突っ込むと、「おおう、さすが専務!」とかやっている。で、融資が通ってしまう。私なんかはそれを見ていて、危ないんじゃないかとずっと思っていたわけです。でも、40代のバリバリ課長はインターナショナル・インベスター気取りで自己陶酔に入っているから、何を言っても聞きはしない。
中野:あ~(溜息)。
黒野:そういう世界だった。その後、若いコンピュータおたくが入ってきた。80年代の終わりくらいだと、会社にはワープロの「一太郎」が一台あったくらいです。
中野:懐かしいですね(笑)。
黒野:その「一太郎」は女性社員が使っていて、あとの人は手書きですよ。さすがにその状況を見て、そのおたくがコンピュータ入れましょうよと進言するわけです。あんまりうるさいから、私もじゃあわかった、入れようということで上司にお願いするわけです。で、なんとか1台入れたわけです。今と違って画面も小さいしおもちゃみたいなコンピュータですね。そうすると、40代50代のおじさんたちが、「お前、良かったなあ、おもちゃ買ってもらって」なんて言っているわけです。当時まだ「エクセル」もなくて、「ロータス123」とマイクロソフトの「マルチプラン」という表計算ソフトで。
中野:懐かしいですねえ。
黒野:私もその後輩に習って、「マルチプラン」で長期のフローをはじいてみたわけ。そうすると、全部真っ赤っかなわけです。プロジェクトが。その結果を課長に持っていくわけ。そうすると、課長がフローなんてどうだっていいんだよと。不動産はキャピタルだろう。放っておけば土地は上がるんだよって、そんなアバウトなことを言うわけです。でも、この計算上では、3年で土地が10倍にならないと採算が採れませんよと。そうすると、「お前さあ、ファミコンなんか使ってそんな結果だしてきてもさあ」なんて言ってくる。頼むよと、「スーパーマリオ」じゃないんですから、これは表計算ソフトというソフトで……。そうするとさすがにわかったみたいですけど、次に言ったことは、「隠せ!」ですよ。仕方ないからこっちはそれを隠した。上司の命令ですからね。で、隠したあと、何か善後策を考えてくれるのかと思いきや、隠したまま、人事異動でいなくなるわけです。
中野:あ~、ある意味合理的ですね(笑)。