バブル崩壊からデフレ不況、そしてコロナ禍の日本のゆくえ【中野剛志×黒野伸一 対談:第1回】
この国はどうなる!? ポストコロナとMMT
黒野:で、その後、不良債権が顕在化して、めちゃくちゃなことになる。で、処理しろと。私は海外不動産の担当だったので、海外で10年間くらいその処理にあたっていたんです。現地チームも50人くらい雇っていて。それも全部クビにしなくちゃいけない。で、ここで思ったのは、何がいけなかったのかと。まずは日本的な年功序列のシステム。あと、終身雇用というけど、これは長期後払い契約ですよ。若いころは給料がすごく安い。どれだけ優秀でもどれだけ頑張っても少しの給料しかもらえない。これが40歳くらいになるとドンと上がる。そうなると、若いヤツは40歳になるのを待つしかない。自分のやりたいことをやるには、爺さんたちをうまくおだてて使うしかない。そうやって会社のシステムに組み込まれていく。で、誰も責任を取らない。バブルもそうやって起きた。本の中にも書きましたけど、銀行だから、天下り先がいっぱいあるわけです。某デパートグループに天下りしてそこの会長になった人がいました。その人が銀行から金を借りる際に、「担保は俺だから」と。なんですか、それって。人間担保って何ですかと……。そういうめちゃくちゃな融資がまかり通っていて、日本中に金が流れていたわけです。審査も何もなく……。そんな状況をずっと見ていたから、私も新自由主義に傾倒したんですね。橋本龍太郎首相が出てきて構造改革を言い出した時に。その前に、じゃあ、監督官庁は何やっていたんだという話ですよね。当時は大蔵省ですね。
中野:大蔵省です。
黒野:でも、そっちはそっちでノーパンしゃぶしゃぶなんかで接待漬けにされていたわけですよ。
中野:1998年ですね。
黒野:大蔵官僚なんてエリートのはずなんだから、断れよと思いますよね。
中野:そんなしゃぶしゃぶ、旨いのかよ。あ、問題はそこじゃないか。
黒野:そんなことやっているから、公務員改革とか倫理規定とかできたんじゃないですかと。だから橋本さんが出てきて、金融ビッグバンとか省庁再編とかやったときにね、もろ手を挙げて賛成したわけですよ。その後の小泉竹中構造改革もしかりです。自民党ぶっ壊せとか、日本的雇用をぶっ壊せとか、そうだよな、終身雇用なんかよくないよなとか、働き方だって正社員もあれば、派遣もあるだろうし、フリーもある。色々あって当然だと。でも、結局こんなデフレ状態が続くことになってしまって。御免なさい、私はバカでしたと……。謝るしかないんですけどね。
中野:そういう時代経験を持つ人って、たぶん、多いんでしょうね。
黒野:私は小説家なので人を見たい。法律とか経済とか、社会問題よりも人の内部に入る方が好きなんですね。で、人って意外と悪いヤツっていないんじゃないかと思っていたわけです。新自由主義的な実力主義にしたって、はっきりいえば、安倍元首相の言うトリクルダウンはあると思っていたわけ。要するに優秀なヤツがリーダーシップを取って、そいつのお陰で下のやつも恩恵を受ける。上も金持ちになるけど、下のヤツも金持ちになる。ところが、とんでもない。トリクルダウンはなかった。「今だけ、俺だけ、金だけ」の世界になってしまった。独り占めしている人間がいっぱいいる。だからこんなことになっている。人類に対する見方が誤っていたなと……。人間の倫理観がこんな程度のものなら、新自由主義はダメで、やはり管理が必要になる。規制も必要だと、思うようになった。こういうデフレ状況が続くことになった転換点を、中野先生はどう考えられますか?
中野:黒野さんの話を受けて言えば、やはりバブル崩壊というのは一つの大きな転換点であることに間違いはないですね。あのバブル崩壊というのは資産価格が半分になるというすさまじいものだったから。とは言えですよ、本当は25年も引っ張るような話ではないです。
黒野:絶対におかしいですよね。