中野：資産バブル崩壊による不況は長引くと一般的に言われているので、10年くらいであれば、まあ、おかしくはないでしょう。でもそれを25年も引っ張っているのは、よほどの政策のミスがあったしか言いようがない。バブル、すなわち資産インフレが崩壊したら、次に起きるのは資産デフレ、そして実体経済のデフレですね。ですから、バブルが崩壊して資産価格が半減した時、デフレを恐れなくてはいけなかった。1929年、NY株式市場がバブルになっていて、それが崩壊した後、米国は、不良企業を清算するんだと言って自然淘汰に任せた結果、デフレが悪化して世界恐慌になってしまった。で、平成の日本はそれに近いことをやってしまった。本当は資産価格が半減してデフレになったら、もっと危ない事態になるので政府支出を拡大しなくてはいけないんです。実は日本はバブル崩壊、1991～93年あたりで崩壊したあとですね、当初は、これはヤバイということで、公共投資を相当やっているんです。やったおかげで、95年くらいまではデフレにならずに済みました。

黒野：そうでしたね。

中野：しかも、経済成長も普通にしていた。で、その間、当たり前ですけど、それをもたせるために財政赤字が膨れ上がるわけです。そのおかげでみんな助かっていたんです。しかし、経済は決して悪くないものだから、「なんで財政赤字ばかり膨らませて無駄なことをしているんだ」「公共投資は無駄だ」という批判が巻き起こった。あと、バブルの時に無駄な、あってはいけないような企業が確かに跋扈していて、それらを温存しているように見えたので、それらを追い出せ、清算しろと主張する新自由主義が出てきて、橋本龍太郎が出てきて、公共投資の抑制や消費増税、それから規制緩和など新自由主義的な構造改革を始めた結果、ものの見事にデフレになった。

黒野：本当に笑いたいくらいですね。

（【中野剛志×黒野伸一対談：第1回】終了→第２回へつづく）

中野 剛志（なかの たけし）

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『日本経済学新論』（ちくま新書）、新刊に『小林秀雄の政治哲学』（文春新書）が3月18日に発売予定。『目からウロコが落ちる 奇跡の経済学教室【基礎知識編】』と『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』（KKベストセラーズ）が日本一わかりやすいMMTの最良教科書としてベストセラーに。

黒野伸一 （くろの・しんいち）

小説家

1959年、神奈川県生まれ。『ア・ハッピーファミリー』(小学館文庫化にあたり『坂本ミキ、14歳。』に改題)で第一回きらら文学賞を受賞し、小説家デビュー。過疎・高齢化した農村の再生を描いた『限界集落株式会社』(小学館文庫)がベストセラーとなり、2015年1月にNHKテレビドラマ化。『脱・限界集落株式会社』(小学館)、『となりの革命農家』(廣済堂出版)、『長生き競争! 』(廣済堂文庫)、『国会議員基礎テスト』(小学館)、『AIのある家族計画』(早川書房)、『グリーズランド1 消された記憶』(静山社)、『お会式の夜に』(廣済堂出版)など著書多数。最新刊が『あした、この国は崩壊する：ポストコロナとMMT』（ライブ・パブリッシング）が3月10日に発売予定。」