日本に勝ちたい「ソ連」が考えたこと
アメリカを使って日本をたたき潰そう。シリーズ!インテリジェンス・ヒストリー「開戦に追い込まれた日本」②
■日本に仕掛けられた、漁夫の利を得る「秘密工作」
戦前は、シベリア・満洲で国境を接している日本は、ソ連にとって常に恐れと警戒の対象でした。
日本側もまた、国境を接しているソ連を脅威と考え、満洲・朝鮮半島への「侵略」を計画しているソ連をいかに阻止するのかを常に考えていました。
日本は、そのために満洲・朝鮮半島地域の軍備を充実させ、ソ連の侵略を未然に防ごうとしました。
一方、ソ連は極東の軍備を充実させるだけでなく、「秘密工作」を仕掛けることを考えていました。その「秘密工作」とは、「アメリカを使って日本をたたき潰そう」という戦略です。自分たちの軍備を充実させて日本軍を打ち破るのは大変なので、日米両国の対立を煽【あお】って日米戦争を引き起こし、日米両国に互いに潰し合ってもらい、ソ連は漁夫の利を得ようという戦略です。
漁夫の利とは「当事者同士が争っているスキに、第三者がなんの苦労もなく楽に利益をさらっていくこと」のたとえで、中国の古いことわざです。
日本は真面目なので、軍事力を増強してソ連の脅威に立ち向かおうとしたのですが、ソ連は、秘密工作、謀略によって勝とうとしたわけです。
その証拠も残っていて、たとえばソ連の指導者レーニンが一九二〇年十二月六日、「ロシア共産党モスクワ組織の活動分子の会合での演説」の中でこう主張しているのです。
二つの帝国主義のあいだの、二つの資本主義的国家群のあいだの対立と矛盾を利用し、彼らをたがいにけしかけるべきだということである。(中略)
第一の、われわれにもっとも近い対立──それは、日本とアメリカの関係である。両者の間には戦争が準備されている。(中略)このような情勢のもとで、われわれは平気でいられるだろうか、そして共産主義者として、「われわれはこれらの国の内部で共産主義を宣伝するであろう」と言うだけですまされるであろうか。これは正しいことではあるが、これがすべてではない。共産主義政策の実践的課題は、この敵意を利用して、彼らをたがいにいがみ合わせることである。そこに新しい情勢が生まれる。二つの帝国主義国、日本とアメリカをとってみるなら──両者はたたかおうとのぞんでおり、世界制覇をめざして、略奪する権利めざして、たたかうであろう。(中略)われわれ共産主義者は、他方の国に対抗して一方の国を利用しなければならない。(『レーニン全集』第三十一巻、大月書店、一九五九年、四四四頁)
日本とアメリカの対立を徹底的に煽る。そうすることでアジアに共産国家を作ろうというのが、レーニンの世界戦略でした。
(『日本は誰と戦ったのか』より構成)