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日本史の実行犯 ~あの方を斬ったの…それがしです~ 関ヶ原で徳川四天王・井伊直政を狙撃した男

日本史の実行犯 ~あの方を斬ったの…それがしです~【柏木源藤】

勇猛果敢な井伊直政の追撃

 しかし、そこへ勇敢にも島津隊を激しく追撃していた武将がいました。それが井伊直政でした。徳川家の精鋭を率いた井伊直政は、関ヶ原の主戦場から5㎞ほど南東に離れた牧田あたりで、ついに島津隊に追いつくのです。
 さすがの島津隊も、この時には多くの戦死者を出し、義弘の周りの兵士も減ってきていました。そこへ「井伊の赤鬼」が襲来し、万事休すといった様相です。
「公(島津義弘)を討たせてなるものか……!」
 源藤はそう思ったことでしょう。既に銃身が熱くなっていたであろう自分の火縄銃に、急いで弾と弾薬をカルカで詰め込み、火皿に火薬を入れて火蓋を閉じて、その時を待ちました。馬上の井伊直政は長刀を手にしながら、

直政「何を手間取っている! 兵庫(島津義弘)を討て!」

 と大声で家臣たちに命じました。源藤は、白糸威(しろいとおどし)の甲冑に小銀杏(いちょう)の前立(まえだて)を付けた兜をかぶり黒馬に跨った声の主に照準を定めました。
 そして、その武者が5間(約9m)に迫った時に、火蓋を切って静かに引き金を引きました。
 ーーーーーーーーーー!!!!
 銃声の直後に、銃弾が甲冑に弾かれた音が周囲に響き渡りました。直政は、まだ馬上の人です。

源藤「しくじったか……!」

 その瞬間、直政は苦痛の表情を浮かべて馬から崩れ落ちました。
 直政の甲冑は「試しの具足」と呼ばれる防弾試験済みのものだったので、源藤の銃弾を弾いたのですが、直政にとっては運悪く、弾かれた銃弾が右腕を貫いたのです。

名乗りを上げるが……

 島津義弘が見ている場で、名のある武将を狙撃することに成功した源藤は、自身の武功を示すため名乗りを上げました。

源藤「川上四郎兵衛(忠兄)、討ち取ったり!」

 なんと源藤は、陪臣であることを憚(はばか)って、主君である川上忠兄の名を叫んだのです。自分の手柄を主張することが当然の戦国時代において、これはかなり特異なことです。おそらく源藤は、謙虚で主君想いの人物だったのでしょう。義弘はこれを見て、

義弘「時は今だ! 早く斬り崩して通れ!」

 と下知を飛ばして、再び敵勢を突破していきました。
 ちなみに、源藤をはじめとした島津の兵士たちは、狙撃した武将が井伊直政だとは知らなかったようです。島津家の陪臣である源藤が、身分が高い直政と面識がないのは当然のことです。
 しかし、身に着けているものから身分の高い武将だということは分かったのでしょう。『井伊家慶長記』によると、島津の兵士は「首を取ろう」と近づこうとしましたが、その中の一人が「敗軍に首は要らぬ」と言ったため、首は取らなかったといいます。
 その直後に、家臣たちが駆け寄って介抱(かいほう)するのを見て、「さては大将だったか。首を取れば良かった」と狙撃した者は悔しがったといいます。この人物は不詳ながら、狙撃した者とあるので、源藤だったかもしれません。
 ちなみに、この追撃戦は井伊直政以外に、直政の婿(むこ)である松平忠吉と、直政と同じく徳川四天王の一人である本多忠勝も加わっていたといいます。
 そして、忠吉も島津隊の銃弾を受けて重傷を負い、忠勝は愛馬の「三国黒(みくにぐろ)」を狙撃され落馬したと言われています。

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長谷川 ヨシテル

はせがわ よしてる

歴史ナビゲーター、歴史作家。埼玉県熊谷市出身。熊谷高校、立教大学卒。漫才師としてデビュー、「芸人○○王(戦国時代編)」(MBS、2012年放送)で優勝するなどの活動を経て、歴史ナビゲーターとして、日本全国でイベントや講演会などに出演、芸人として培った経験を生かした、明るくわかりやすいトークで歴史の魅力を伝えている。テレビ・ラジオへの出演のみならず、歴史に関する番組・演劇の構成作家や、歴史ゲームのリサーチャーも務めるほか、講談社の「決戦! 小説大賞」の第1回と第2回で小説家として入選するなど、幅広く活動している。NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)の第3話に一般エキストラとして14秒ほど出演。また、金田哲(はんにゃ)、山本博(ロバート)、房野史典(ブロードキャスト!!)、いけや賢二(犬の心)、桐畑トール(ほたるゲンジ)とともに、歴史好き芸人ユニット「六文ジャー」を結成、歴史ライブやツアーを展開中。トレードマークは赤い兜(甲冑全体で20万円)。前立ては「長谷川」と彫られている(特注品で1万5千円)。著書に『ポンコツ武将列伝』(柏書房刊)『マンガで攻略! はじめての織田信長』(原作・重野なおき、金谷俊一郎との共著、白泉社刊)がある。雑誌『歴史人』の人気ウェブ連載をまとめた『あの方を斬ったの…それがしです ~日本史の実行犯~』が3月19日(月)配本!


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  • 長谷川 ヨシテル
  • 2018.03.20