訪れたい場所は自分で作る。人生は試行錯誤【植物採集家の七日間】
「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第5回
世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。
ここではないどこかに行きたい。自分ではない誰かになりたい。
憧れや夢という非現実を見ることは、不思議と現実を強く生きる力を与えてくれるものです。
旅で出会った植物と人間の叡智をお届けします。
「植物採集の七日間」連載第5回は「訪れたい場所は私がつくる。人生は試行錯誤」。植物採集家の感性と行動の旅路を追います。
第5回
訪れたい場所は自分で作る 人生は試行錯誤
– Plants enrich your life‒
■物事は好転する時が最も辛い 冬の終わり、春の手前
3月の始まりは太陽の動きに合わせて季節を区分した「二十四節気」でいう、啓蟄(けいちつ)にあたる。桜の花開く季節、春分(しゅんぶん)の一つ手前にあたり、暖かな日が増え、冬が終わりゆく時。「二十四節気」では、2月の上旬に立春(りっしゅん)から一年がスタートするが、立春、雨水(うすい)の後、3番目にあたる啓蟄の今は春を待ちわびる時期。気温と気圧の変化がジェットコースターのように激しく、人々の自律神経も乱れやすい。私には、頭痛や目眩に悩まされる日々が訪れるのだ。
一年の中では、梅雨や冬の期間にも気圧の変化の多い時期はある。春の手前、啓蟄が最も厄介なのは、「世の中が物事の始まりや、楽しい予感に溢れてくる」からだ。不調や不安を感じている人も、ネガティブなことを言い出しにくい空気がある。
周りの人間だけではない。庭の植物を見ても、自分だけが置いていかれる気分になる。冬の間じっとしている草木も、啓蟄からは目に見えて新芽が出て、蕾も膨らみはじめ、変化は大きい。「ちょっと待って、春が来ちゃう」と、喜びよりも焦りを感じるのではないだろうか。
三寒四温が繰り返される時期は、春の訪れを期待した分だけ、寒の戻りに落ち込みは大きい。逆戻りするという揺さぶりが辛い人は、実際とても多いようだ。体にとっても、心にとっても。
■季節の変化と転地療法
私たちが病院などで受ける医療は主に投薬などを行う、西洋医学と呼ぶ。西洋医学を補う、または代替するものを補完代替医療といい、漢方、鍼灸、クレイセラピー、植物療法、温泉療法などが該当する。補完代替医療の専門家たちは啓蟄の時期に注意を促す。「どうか無理をしないように」「全部気圧のせいにして無理はやめましょう」と。季節の変わり目、特に春の始まりは、行き場のない不安定なエネルギーが至るところに渦巻いているようで患者数も多くなるそうだ。
転地療法も補完代替医療の一つで、治療方法が不明な難病、克服困難な病気を患った場合に、住む場所を変えて緩和ケアをするのが始まりだった。現代では中長期的な旅行や、1日限りのハイキングでも効果があるという研究結果もあり、転地療法は広義に捉えられている。私は気候の変化を大きく受けやすいため、3月はいつも補転地療法を活用していた。