訪れたい場所は自分で作る。人生は試行錯誤【植物採集家の七日間】
「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第5回
■植物のように育てていく、訪れたい場所
気がつけば独立して5年。プロジェクトごとに喜んでもらえる機会は増えても、徐々に焦りは募っていった。私の訪れたい場所は、いつになったら形になるのか。そんなことは実現可能なのか。世界中の建築や植物園、ギャラリーを回ったが、日本で実現できるのだろうか。
大きなヒントは、生まれた場所からすぐ近くに存在していた。実家から車で15分。母が面白い場所があるからと誘ってくれたギャラリー noir/NOKTAは、世界遺産である韮山反射炉のすぐ近くに。初めて訪れた時にオーナーの平井さんに声をかけ、話を聞かせてもらった。30歳を超えて建築デザインを独学で学んだこと。40歳を過ぎてから、実家をカフェにし、目の前の材木所をギャラリーとして増築したこと。一気に全てができたわけではなく、少しずつ育てていったこと。
私も、誰かが丁寧にこの場所を作ってきたのだとわかる、そんな場所を作りたいと思った。外壁には青々としたツル科の植物が生い茂り、長い期間この場所が愛されてきたことが窺える。noirとNOKTAと呼ばれる2つのギャラリーはそれぞれの過去の用途、住宅と倉庫だった歴史をほのかに感じさせ、展示する作家のアトリエにお邪魔したかのような気持ちにしてくれる。
訪れたい場所を作るためには、訪れたい場所を作る「空気」が必要だ。空間デザインはもちろん、植栽計画や音に香り、何より人が重要である。急ぐことや、焦ることでダメになってしまうこともある。
建築家である平井さんは、建築以外にも経験を積んで、仲間を増やして、人生とギャラリーを育てていった。「好きなことを、どうぞ続けてください。自分が楽しくないと続けていけないからね」
自分が覚悟を決めれば、どこででも、どんな形でも実現可能だと教えてくれた。たとえ時間はかかっても。
ここではないどこか、私ではない何者かになりたい気持ちは生きる勇気をくれる。それでも逃げられない自分の人生。星に願いを託すのではなく、自らの手で耕して行こう。
古長谷莉花 植物採集家
1986年静岡生まれ。幼少期よりガーデニング好きの母の影響で生け花・フラワーアレンジメントなどを通し、植物と触れ合って育つ。様々な視点で植物を捉え、企業やクリエイターと植物の可能性を広げる試みを行っています。
撮影協力
ギャラリー noir/NOKTAオーナー:建築家 平井英治
毎週月曜配信、植物採集家の七日間。
次回は植物採集の旅最終回、静岡編第六回。
「鍵は過去にある。知恵と植物が開く未来。」