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中欧を縦断する国際列車の旅 (後編)

思い出のヨーロッパの鉄道紀行

プラハ・ホレショヴィッツェ駅に到着するヴィンドボナ号

 プラハで数日過ごした後、再び「ヴィンドボナ号」に乗ってウィーンを目指す。プラハ・ホレショヴィッツェ駅で10分ほど停車している間に、先頭の茶色と黄色に塗り分けられていたツートンカラーの電気機関車が切り離され、代わりに青い車体の電気機関車が現れる。しかも客車を1両連結して、停車中の客車と合体。列車は1両増えたことになる。といっても乗客が急に増えたわけではなく、プラハで新たに連結された客車はガラガラの状態で発車した。チェコの青い電気機関車は交直両用とのことで、この先、電化方式が変わるのであろう。

青い機関車とともに客車も1両連結

プラハ・ホレショヴィッツェ駅に停車中のヴィンドボナ号

 発車して10分くらいでスピードも上がり、緑豊かなところを走り始める。しかし、通過する小さな駅の名前はプラハ・○○○駅となっている。まだまだプラハ市内のようだ。
 森を抜け、平原にさしかかると、線路状態がよくなったらしく、揺れも少なく快適な走りっぷりである。架線柱や枕木も新品で最近改良工事が済んだばかりのようだ。

チェコの車窓から

 比較的大きな駅コーリンは通過し、車窓は平原と森が交互にあらわれる。やがて、山の中に迷い込んだように頼りなげにスピードを落とし、長い車体をくねらせながらカーブの連続する区間を行く。複線ではあるが、片側の線路は工事中のようで、徐行しながら進む。工事が終わり複線に戻ると、対向列車が数珠つなぎになっている。道路工事なら反対方向へ向かうクルマが渋滞しているのは、よく見かける光景だが、鉄道では、とくに日本ではありえないことだ。それも1カ所ではなく、何回も遭遇した。これでは定時運行はおぼつかない。気が付くと、列車はかなり遅れていた。

プラハで増結されたチェコの客車車内

 町が近づいたようで、郊外の団地が現れる。西欧ではあまり見かけない無粋な建物群だが、旧共産圏ではお馴染みの住宅風景だ。聞くところによると評判はどこもよろしくなく、取り壊して新しい団地に建て替えているところも少なくないらしい。列車はスピードを落として、チェスカー・トレボヴァに停車した。35分ほどの遅れだ。

ヴィンドボナ号の列車時刻表

プラハからウィーンまでの停車駅案内

 オロモウツ方面へ向かう幹線が左に分かれていくと、あとはひたすら南を目指す。そして、またしても山越え区間である。といっても、スイスやオーストリアのような急峻な地形ではない。なだらかで、のびやかな感じもする。しかし、しつこいくらい延々と続く。小さな集落が点在する中を、うんざりするくらい頻繁にカーブしながら進む。トンネルも多い。
 少々退屈してきたので食堂車を訪問した。ところが開店休業状態で誰もいない。暇を持て余していたウエイトレスが嬉しそうにメニューを持ってやってきた。中途半端な時間だので、とりあえずチェコのビールを注文。それだけではウエイトレスが可哀そうに思ったので、つまみにとサラダを追加した。これが日本ではありえないくらいの量で、ハム、チーズ、卵が添えられ、しかもパンが付いている。結果として、かなり早い夕飯になってしまった。

食堂車でまずはビールを飲む

 食事を終えて自分の席に戻る。夕方6時近くになってブルノに到着。線路際には大きな工場もあり、かなりの都市である。それもそのはず、チェコ第2の都会なのだ。ブルノといえば思い出すのは、エンドウ豆の交配で遺伝の研究をしたメンデルだ。学校の理科の授業で習ったメンデルの法則で知られている。ここブルノの修道院で司祭を務める傍ら、遺伝の法則など様々な研究を行い、教職にもたずさわっていたそうだ。
 ブルノを出れば、あとはひたすら農村地帯を走るのみ。太陽の光が低いところから車内を差すようになり眩しい。
 突然、オーストリアのパスポート・コントロールの係官が登場。いよいよ列車の最終行程である。国境駅ブレツラフで最後の機関車交代となり、チェコの機関車からオーストリアの電気機関車に引き継がれる。不思議なことに、オーストリア国内に入ってから、チェコの係官がパスポート・チェックにやってきた。何のためだかよく分からないけれど大人しくパスポートを見せておいた。
 やがて、列車は大きな河を渡る。お馴染みのドナウ河だ。やっとのことでウィーン市内に入った。近郊電車が並走し、隣の線路に近づいてくる。のぞくように眺めると車内は満員。いかにも西欧の首都らしい賑わいを見せている。長い夏の日も暮れ、ウィーンの街のネオンが灯りはじめた。ウィーンの到着駅は当時の南駅。列車が停止したのは20時前。かなりの遅れで、ヴィンドボナ号の長い旅路は静かに幕を下ろした。

夕闇迫るウィーンに到着

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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